第6章 継続的専門研修制度(CPE)
1.CPEの必要性
日本の税理士はその資格の取得により、原則として資格放棄をしない限り、年齢に係わらず税の専門家としての「税理士」の名称を使用することができる。今日の税法は複雑化し、会計は世界標準に併せるべく早い速度で変化している。このようなとき、一般社会からの信頼を維持させ、かつ専門家としての質の向上を常に試みるべきであろう。CPEの採用は税理士だけに限らず、他の資格業界にも要求されてきている。そこで、既にこの制度を導入している資格業界や、これから導入を検討している他資格業を研究し、今後税理士の質の向上と社会からの信頼を維持するにはどのようにあるべきかを検索し、日本の公認会計士制度と、その規範とされた米国の公認会計士制度における継続的専門研修制度を研究してみた。
2.日本の公認会計士のCPEの概要
日本の公認会計士制度では、CPE制度は任意制度であるが、今後強制適用させることを計画している。これは社会の信頼性確保と、世界の公認会計士制度の現状を見るに、先進国ではCPE制度の導入をしている国が多いことに起因している。米国の制度との違いは、後述する資格更新の条件としない点である。日本の公認会計士制度では、年間80単位の取得が要求され、その範囲も会計・監査・税務・コンサルティングなどと幅広い分野になっている。また、日本公認会計士協会への報告は指定の報告書に年2回に分けて報告することとされており、研修会参加、自己学習、論文発表、その他の分野に分けて記載することとなっている。
3.California州のCPEの概要
カリフォルニアを含めた米国の公認会計士の場合、継続的専門研修制度における単位の取得は、自動的に公認会計士の資格更新条件と結びついている。つまり、継続的専門研修を履修しない限り公認会計士としての資格を更新、付与されないこととなるわけである。以下にカリフォルニア州の概要を記した。
(1)免許の更新時期
2年ごとに更新しなければならない。これは単に継続的専門研修制度の取得単位の報告のみにとどまらず、更新の会費も納入しなければならない。更新は、州の財務 局(Board of accountancy)に対し届けることとなっており、公認会計士協会ではない。また、更新はすべての者が同じ時期に行うのではなく、多数の者を分散して行う工夫がされている。それによれば更新の年月日期日を、
- 誕生日が西暦偶数年の人は、偶数年の誕生月の末日まで
- 誕生日が西暦奇数年の人は、奇数年の誕生月の末日まで
と規定している。
(2)更新に必要な研修
カリフォルニア州を含めた米国の公認会計士の場合、日本と異なり更新登録後活動状況にある会計士(Active)と、休眠状態にある会計士(Inactive)とに分類される。また、更新研修については基本的にはAICPAが決めているが、それによれば3年間で120単位となっている。しかし、カリフォルニア州では独自に以下のように規定を設けている。
① Active会員の場合
- 2年間で80時間の研修を履修しなければならない。
- 但し、1年間で80時間の研修を履修することは可能。
- Audit、Compilation等の業務を行う者は、2年間の内、会計又は監査に関する事項につき24時間履修を要す。
- 6年間の間に8時間は専門家としての「倫理に関する研修科目」を履修しなければならない。
- 2年間で80時間以上の研修をした場合において、80時間を超える部分については翌年以降に繰り越すことは認めていない。
② Inactive会員の場合
- 特に研修は不要。
- 但し、会費についてはActive会員と同様に払い続ける必要がある。
③ 新規資格取得者等直ぐに更新時期が到来してしまう場合
- 6ヶ月毎に20時間の研修を履修しなければならない
(3)更新の期間延長
更新の期間の取扱いは州により異なるが、カリフォルニア州では以下の通りです。
原則:
2年で80時間の研修を履修できなかった場合にはInactiveで更新をし、InactiveからActiveになる為の要件研修を履修する
例外:
延期願いが許可される場合 長期療養等による場合…医師の診断書を要す。兵役義務による場合。
(4)InactiveからActiveに変更する場合
米国では、CPA資格等を取得した者は必ずしも職業会計人の職に就くわけではない。公認会計士が、学者であったり、一般企業の社員であったり、公務員であった りすることは日常茶飯事である。そこで、CPA資格だけ取得して公認会計士としての業務に従事していない期間が長い資格者については、必ずしも継続的研修制度の強制をする必要がないことから、一時的にInactiveとなる者も多いため、InactiveからActiveに変更するときの規定を設けている。それによれば、
- 2年間で80時間というActiveの条件を満たす研修を履修する
- Active更新後、次の更新までについては、新規資格取得者と同様6ヶ月ごとに20時間の研修を履修するとされている。
(5)Activeの人で必要研修を履修できなかった場合
(例:2年間で履修時間が75時間だった場合)
- Inactiveで更新をする。
- 残り不足時間の研修を履修し、80時間に達した段階でActiveの申請を行う。
- 申請後、次の更新までについては、新規資格取得者と同様6ヵ月ごとに20時間の研修を履修する。
病気になったり、不慮の事故などが起きたために、期限内に規定の時間の研修を受けられなかった者に対しても、同様である。
4.単位取得の方法
継続的研修制度は、基本的に各公認会計士が個人個人で自己研修をすることを前提としているが、広い米国において都会のみならず地方の中小法人対象の公認会計士にも同様の規定を準用させるため、その単位取得について、以下のように規定している。
(1)中小法人のCPAの場合
(研修を行う側も記録を保管し、受講の有無の問い合わせに返答できる体制にある)
- 専門家としての能力を高めるものであれば何でも良い。
- 州やNASBA(National Association State Board Accountant)で承認された研修を受けた者であること。
- 通信教育も可能。但し、テストの提出があり合格しないと単位がもらえない。
- 大学等で行われる研修については、出席のサインをするのみでテスト等はない。
- 受講については社会保障番号(Social Security Number)で管理されている。
- California Society of CPAsやAICPA(American Institute Of Certified Public Accountants)で紹介されているものを受講する。
(2)大法人のCPAの場合
- 大法人は、州やNASBA(National Association State Board Accountant)で承認された独自の研修プログラムがある。
- 特に外部研修を履修する必要はない。
5.最後に
このように資格の更新制度と伴に規定されている継続的研修制度は、単に登録の更新を目的としているのではなく、公認会計士の質的な向上を社会に対し確約していることでもあり、公認会計士制度自体の社会的信頼が確保されている。そのため、公認会計士協会(任意加入団体)にて管理されるのではなく、州政府にて資格更新と伴に管理されている。
また、休眠状態の会員にも配慮があり、個々の会員のおかれている立場を考慮した制度であることが伺えた。
(滝口 登紀子 担当)