Ⅴ.渡辺Keiji氏講演録

日本人EA渡辺氏講演

1.経 歴

(1)事務所を開設するまでの道のり

高校3年生の時、米国在住のおばを頼って渡米。得意の英語で米国の高校を卒業。大学に進学し、経理を専攻する。永住権(当時は今より簡単に1年位で取得できた)を取得できたのを機に、大学を中退してジムコ経 理主任としてフルタイムで働き始める。その後、日本の2×4工法建築ブームで米国大工 ツアーが大流行した為ガイドツアーに転職。月10日位で3,000~5,000$働き、3年間資金を貯め、サンディエゴで日本食レストランを始める。素人でも日本食レストランをOPENすれば儲かったという時代の波に乗り、たった1件しかなかったのも幸いして、1年半位は絶好調であった。
しかし、競争相手がオ-プンにより、2年目頃から店の経営は火の車になる。4~5年たった頃は借金づけになり、破産寸前に追い込まれる。レストランを知人に売却。レストラン隆盛時代に購入した2件目の家も手放し借金返済に充てる。
レストラン時代を振返り、CPAと弁護士が安定していると判断し、カリフォニア州立フルトン校に嘆願書で復学をして、アルバイトで妻子と家のローンを抱えながら、中途退学のハンディを乗り越え1982年卒業する。CPAを希望したが、時すでに31歳、試験にも受かる確証はなく、妻子を抱え2年間の研修は不可能との理由で諦め、1982年1月大学卒業と同時に、税務事務所を開く。

(2)事務所を開設してから今日まで

当初、地方誌のラフ新報に「税金報告と記帳サービスを致します」という広告を出し、40人位の依頼を受ける。税務申告依頼は1年に1回で終わるが、Bookkeeping(記帳サービス)は一年間を通じての仕事なので客を確保することが難しい。サンディエゴのレストランを購入してくれた知人が、最初の記帳サービスの依頼人になってくれ、当初10件位のBookkeeping(記帳サービス)から始め、得意なコンピュータを生かし教室を開設したりして毎年客が増えていたが、今から6~7年前ぐらい日本が不景気になった時期にBOOKKEEPINGのお客が20人ぐらい減った。
日本へ帰ったり、貿易業は日本の不景気の影響で破産したりしてショックを受けたが、今は立ち直り、それ以上の客になって順調に進み今日に至る。EAの資格は、12年位 前に、同業の友人から聞き取得したがそれまでは知らなかった。95%は米国在住の日本人のクライアントで占める。

2.事務所・沿革(Company Profile)

(1)事務所概要

1999年の総売上 26万$
Income Taxes(Individual,Partnership,Corporation and Estate)
納税申告で得る収入
34%
Bookkeeping Services(記帳代行)で得る収入 60%
Incorporation(株式会社設立サ-ビス) 4%
Consultation(コンサルタント)で得る収入 1%
Client Base 665人
常のEA2~3人分の件数
Bookkeeping Client 160件
Payroll Services(給料計算)
従業員
Annual Employees Salary(一年間従業員の給料) Five Employees
$56,490

(2)報酬規定、契約書、賠償保険について

時間でFeeをチャ-ジしたことはない。自分の考えとしてこの仕事はレストランやデパ-トと違い商品は自分の知識だと思っているので、具体的に仕事を時間で計ることは好きではない。したがってそういうシステムは採用していない。
報酬規定は作っていないが、自分のFEEは同じ仕事でも120$の客もいれば200$の客もいる。客が仕事を依頼してきて客が納得した料金と言うのは、その人しか知らない。その人が高いと思えばどんなに安くても高いと思われるからだ。
客と話し合い、どういう価額だったら満足なのか解るのでそこで報酬を決める。

契約書
契約書は交わさない。18年間の仕事の中で一度しか交わしたことはない。自分の仕事は商品の売買ではないと思っているので、客が自分の仕事に満足しなかったら、絶対払えという気はない。

EA損害賠償
客が自分の仕事が気に入らず、それにより税金が増え訴えられた場合にカバ-する保険に加入している。1年に1回 750$で掛け換えている。ミスで訴えられたことはないが、時々申告漏れがあり、それは自分の責任でもあるが、納税者が正確に伝えてくれなかったことによるものである。

(3)電子申告について

米国在住の日本人のクライアントが多いため、3~4年前E-FILEをやってみたが、不評でやめた。なぜなら、自分のインフォメーションをコンピュータに入力して他の人に知られたらと・・・いうことがものすごく在米日本人にはあり、お客が信じていないからだ。しかし、EAミーティングなどではE-FILEの方向に行っていると言われているので、白人社会では結構受け入れられているが差はあると思う。

3.EAとしての仕事の内容

(1)BOOKKEEPING

Bookkeepingのクライアントはレストランや貿易商などでのビジネスで、160件の内150件の総勘定元帳や試算表業務を毎月行っている。その他は年に1度のBookkeepingのクライアントである。Bookkeepingのやり方は、小切手帳の耳の部分を基にし、レシートなどから現金(ガソリン代、文房具代程度)での支払分の仕訳等を入力する。売上表(お客に1ヶ月の統計は出してもらっている)、給与計算のTOTALも全て入力し、試算表を作る方法である。そのプロセスは5人のスタッフが行っており、終わった時点で自分がチェックする。会計ソフトは、ABPIソフトを使用。
クイックBOOKS については、一般の人は使っているが、出てくる字が小さい上使いにくいと思っているので使用していない。クイックブックの価格は300$ぐらいで安いが、使用している会計ソフトは2,000$位、納税申告用のTAXソフトの価格は年間1700$くらいである。米国のよい点は、ほとんどの支払いに小切手を使うので作業が大変楽であり、銀行のきちんとしたスティトメントと合わせると、計算は簡単である。

(2)Incorporation(株式会社設立サ-ビス)

Incorporationについては、自分でノウハウを習得し弁護士と比べ1/2 以下の価格でサ-ビスしている。これをすることにより、必然的にBookkeepingの顧問になれる。
株式会社の株主構成1人ででき、設立期間は10日位である。資本金の額は法律では決まっていない上、資本金は全額積まなくてもこれだけ使いましたという部分も資本金の一部に出来る。ただ、資本金の額が少ない上に借入金が多額なカンパニ-はIRSに認められない。

(3)Consultation (コンサルタント)

収入に占める割合は1%だがConsultation(コンサルタント)業務は、結構多く行っているが、自分の主義として毎月の顧問料とコンサルタント料を別料金としては設定していないためである。

(4)Payroll Services(給与計算)

給料計算のサ-ビスについては5~6年前から始めて、計算のみならず小切手発行のところまで行っている。学生アルバイを使い入力し、最終チェックを自分が行う。
米国には大手の2社(ATT,ペイチェック)があり、1回につき60~100$でBookkeepingをしている。自分のところでは顧問料に含まれているので、給料計算は別料金ではない。したがって1度、自分の所で慣れたしまったお客は他に移るとBookkeepingと別料金を取られ高いものにつく。このサ-ビスを行うことで収入は変わらないが、お客の定着率がグンと良くなり、今日の規模になったのではないだろうか。

(5)その他の仕事

連邦税も州税もやる。連邦税の申告書を作って、そこで出たTOTALを州税の申告書に写して税率をかけるのが州税の基本となっている。毎月EAのMeetingがあるが、そのメンバ-の半分は4月15日までの税務申告業務を行っており、株式会社(会計年度は会社により異なる)の税務申告は行っていない。5~12月は、オファ-制度の仕事に力を入れている。米国では滞納されている税金が増えている為、減らす為に回収できる範囲で回収しようという制度をいう。
例えば、10万$の滞納がある人がEAに依頼して、政府に交渉し5万$に下げてもらうというもの。高額な滞納者は、EAの報酬を支払ってでも依頼してくる。
しかし、昨年の税金を少なくしてくれというのは不可。10~15年前から滞納している税金でTAXをきちんと清算しようとする人のために使うシステムなので政府にも有利になる。
通常の税務申告では成功報酬は認められていない(例外として修正申告ではいくら戻ってくるかにより認められている場合もある)が、このオファ-制度に関しては成功報酬が認められているため、白人のEAは得意なオファ-制度の仕事に力を入れることで収入も安定する。しかし、自分はこの業務は行っていない。ちなみに一般的なEAの平均所得は年5,500$といわれている。

4.EAの今後として考えること

(1)これからの仕事の方針

税金サ-ビスやBookkeeping(記帳サービス)だけで客の心をずっと捕らえていくことは難しいのではないかと仕事をして感じる。米国では納税申告がインタ-ネットでできる時代、政府も力を入れているので市販の納税ソフトで多少の知識があれば簡単な納税申告を個人ができる時代になってきている。
しかし、Bookkeepingの将来性は納税申告により、もう少し伸びるとは思う。なぜなら、やはりこれはコンピュータソフトが出来ても、一般の人が貸方/借方とか自分で出来るというものではないからだ。現在の米国人の20~30%が自己申告しており、残りの70~80%がプロに依頼している。

(2)相続税の問題とリビングトラスト

現在の米国では日本と同様に相続税の問題が取り上げられている。EAのセミナ-でも数多くあるので出席をしているが、これからのビジネスとして考えているのは相続税の問題とリビングトラストだと思う。リビングトラスト(生きている間のトラスト)とは、人が生前に自分の財産をトラストに全部移してしまい相続税の問題を簡単にするシステムである。もし、リビングトラストをしないでなくなった場合には州の法律の税率によって分けなくてはならず、期間も1年以上かかってしまうため、いま米国では盛んに行われている。そのトラストのTaxation手伝いも仕事の範囲に加えて行こうと考えて勉強している。それらの業務を行うことにより、今後コンピュ-タ化され,皆が自己申告のできる時代を切り抜けていかなくてはならないと思うからだ。

(熊田 由美子 担当)

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