Ⅱ.わが国の税理士制度と米国の税務専門家制度との比較
1.資格者と業務範囲との相違について
わが国の税理士は、税理士試験合格者、税理士試験免除者、弁護士資格者、公認会計士資格者、外国公認会計士等(税理士法3条)の資格者のうち、税理士名簿に登録(法18条)した者をいう。税理士は他人の求めに応じて、税務代理、税務書類の作成、税務相談、付随業務(法2条)を業として行うことができる。この「業」として行う範囲外のものとしては、租税に関する講演、一般的な税法の内容の説明、会社の使用人が会社の税についての書類を作成し、代理事務をすることなどがあたるとされている。そのため、税理士以外の者は、業として、税務代理、税務書類の作成、税務相談に関する税理士業務を行うことができないが、この「業」にあたらない範囲内のものは許容されている。
米国の税務開業者は、無制限業務行為者(Practitioner)である弁護士、公認会計士、登録代理人、登録保険数理人の個人である資格者と制限行為者(Limited practice)である無制限業務行為者(Practitioner)以外のその他の個人(連邦又は州職員は職務の性格上開業者に含まれない。)とされている。制限行為者の業務範囲は、無制限業務行為者(Practitioner)の業務範囲に含まれる単なる申告書の作成、証人としての出頭、IRSへの情報の提示(Sec.10.7)が可能とされている。そのため、IRSの税務調査で制限行為者は納税者を代理して情報の提示等ができるが、不服申立段階の納税者の代理はできずまた、徴収部門等への納税者の代理もできない。
わが国の税理士制度と米国の税務専門家制度との違いは、わが国では、米国の制限行為者(Limited practice)といわれる者の範囲のうち、近親者や会社の使用人等の他人の求めに応じるものでなくかつ不特定でない場合以外は、他人の求めに応じて申告書等の作成等をする個人は、税理士法違反とされているが、米国では合法の範囲としている。また、わが国の税理士の業務範囲としている税務相談、付随業務については、財務省規則では、規制の対象外であって規制を加えていない。財務省規則では、業務の有償、無償の区別について規制していないが、業務に対する料金について規定(Sec.10.28(不相当報酬禁止)、Sec.10.30.(b)(料金情報の広報))を置いており、その有償性を前提に業務を規制している。わが国税理士法は、「業とする」とは、税理士業務の事務を反復継続して行う意思をもって行うことをいい、必ずしも有償であることを要しないとされ、無償の場合も税理士業務の範囲に含めている。
2.税理士の権利及び義務の相違について
わが国の税理士に関する権利及び義務に関しては、「税務代理の権限の明示」、「特別委任を要する事項」、「税理士証票の呈示」、「署名押印の義務」、「計算事項、審査事項等を記載した書面の添付」、「調査の通知」、「意見の聴取」、「脱税相談等の禁止」、「信用失墜行為の禁止」、「秘密を守る義務」、「会則を守る義務」、「事務所設置の義務」、「帳簿作成の義務」、「使用人等に対する監督義務」、「助言義務」、「業務の制限」、「業務の停止」を定めている。米国の財務省規則では、業務行為者のIRSに対する義務として「情報の提供義務(Sec.10.20)」、「納税者の懈怠に対する助言(Sec.10.21)」、「正確性の履行(Sec.10.22)」、「迅速処理(Sec.10.23)」を定めている。わが国の税理士法では、第1条の使命の趣旨から「情報の提供義務(Sec.10.20)」、「納税者の懈怠に対する助言(Sec.10.21)」、「正確性の履行(Sec.10.22)」、「迅速処理(Sec.10.23)」を含むものと読みとることも可能であるが、明文の規定の定めがないので、処分を伴う税理士の義務とはいえないであろう。
米国の「納税者の懈怠に対する助言(Sec.10.21)」義務は、わが国の「脱税相談等の禁止」、「助言義務」に相当したものと考えられる。
税理士法では、納税者に対するものとして、「信用失墜行為の禁止」、「秘密を守る義務」として最低限度の義務を定めている。米国では、「報酬」、「利益相反の禁止」、「業務懇請の制限」、「タックスシェルター意見に関する注意義務」、「申告に関する助言のための規準」を定めている。米国では規則で定めらているものが、わが国では倫理規定、報酬規定、専門家の相当な注意義務や使命等の抽象的一般的な規定に委ねられている。法令・規則レベルの規制はされていない。
特に、「申告に関する助言のための規準」は、専門家としての業務水準を明らかにするものなので、わが国では、具体的な水準を明確にしたものはないものと思う。納税者の権利を擁護する立場にある税理士が、納税者のために権利擁護を実現するため、具体的に何をすれば権利擁護の実現になるのか、その具体的な業務水準についての税理士会としての規準は体系的なものはないものと思える。この納税者の権利擁護実現のための業務水準ないし行動基準は、税理士会が今後の取り組むべき研究課題であるものと考える。