3.アメリカの現状

(2)日本の専門家責任

アメリカの現状を紹介する前に、日本における専門家責任に関する基本的考え方を振り返っておく。
職業賠償責任保険を検討するには、我国ではその保険対象を考えるうえで大きく二つの視点がある。一つは契約責任であり、もう一つは不法行為責任である。

①契約責任

契約責任とは、その責任が法律行為注2たる契約の不履行に基づいて発生するものである。税理士業務でいえば、顧客・関与先と税理士との間で締結された委任契約(=顧問契約)ないしは請負契約にもとづき発生する、税理士の債務不履行責任注3である。
委任契約では特に受任者の善管注意義務(民法§644)が重要である。善管注意義務とは、一般的には「その人の職業、経歴、生活状況等に応じて、社会通念上要求される程度の注意をいう」とされ、税理士などの専門家にはその社会的使命などに鑑み、一般人に求められるものよりも高度な注意義務が要求される。
税理士がその業務遂行にあたって要求される業務には、

  • 高度注意義務
  • 忠実義務
  • 説明・情報公開義務
  • 業務補助者に対する指導・監督義務

等があげられるが、この範囲・内容はさらに拡大される可能性があることを十分配慮する必要がある。注4

②不法行為責任

不法行為責任とは、故意または過失に基づく権利侵害によって発生する責任である。税理士業務についていえば、契約にない、あるいは法律違反の法律行為・事実行為によって与えた損害の賠償責任がこれにあたる。民法第709条以下にその一般的な規定がある。
なお、ここでは便宜上「権利侵害」といったが、これは第709条の文言に忠実に従ったものである。現在ではこれは「法規違反=違法性」と読み替えられ、具体的に「〇〇権」といった名称がある必要はないとするのが判例、学説の立場である。

注2 法律行為とは、意思表示をしを要素とする私法上の法律用件である。(我妻栄「民法講義 総則」〔岩波書店〕 p.238)そして、法律要件とは、法律効果を生ずる生活要件である(前掲我妻 p.231)。「契約」は「双方行為」ともいい、法律行為の代表的なものである
注3 債務不履行とは、債務者が正当な理由がないのに債務の本旨に従った債務の履行をしないことをいう。これにより、債権者には遅延賠償請求権、填補賠償請求権、さらには契約解除権が発生する
注4 日本税理士会連合会・東京税理士会編「税理士業務に関する損害賠償責任とその対応」(1996)p.2以下

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