3.アメリカの現状

(5)「被保険人」の位置付け

登録代理人(E.A.)が、「被保険人」に包摂される概念であることは前述したとおりである。セント・ポールは「専門家サービス」⇒「被保険人」⇒「登録代理人等」という順序で概念規定をし、「被保険人」につき「被保険人とは、『本契約で保護される人』条項に基づき被保険人として資格を与えられたすべての人あるいは組織をいいます。」と簡単な定義付けに止めているので、ここでは、別途入手したCAMICO相互保険会社の「会計専門家責任保険証券(Accountants Professional Liability Insurance Policy)」を例に見ていくこととする。

CAMICOは、被保険人("WHO IS AN INSURED")の意義について、次のようにいう。

「次に挙げた人々は、それぞれ被保険人である。但し、遡及日現在ないしその日以降、名宛被保険人ないし被合併事務所の便益のため専門家サービスを提供している期間に限ります。

但し、獲得ないし合併された後に提供された専門家サービスに限る。

  1. 保険文言ないしは裏書によって特定される名宛被保険人。
  2. 名宛被保険人の現任ないし前任のそれぞれ所有者、パートナー、持分権者、従業員。
  3. 証券期間内に名宛被保険人の所有者、パートナー、持分権者、従業員となったすべての人。
  4. 名宛被保険者の直接管理の為ないしはその下でなされた専門家サービスに対する場合を除く、名宛被保険人の派遣社員ないしは契約社員。
  5. 被合併事務所。
  6. 証券期間内に名宛被保険人によって獲得された人ないしは合併された人。
  7. 被保険人の法律代理人。但し、本証券に基づくその被保険人の権利・義務の範囲内に限る。」

この定義付けも戸惑いを覚えるもので、我々の感覚ではかえって「被保険人」概念がぼやけてしまうような印象がある。若干付言すれば、事務所の「所有者、パートナー、持分権者」というのは、我国でいう所長税理士や共同経営者のことであり、その「事務員、派遣社員、契約社員」というのは、いわゆる事務所員にあたるものと思われる。ユニークなのは、「被保険人の法律代理人」である。原語は"legal representative"であるが、弁護士というよりは、むしろ「法定代理人」すなわち法律に根拠を持つ代理人という広い意味であろう。詳細は不明である。以上からあえて解釈すれば、「専門家賠償責任保険」に加入したこれらの人々は、当然の事ながら「被保険人」であり、「専門家サービス」の提供者であるから、その提供行為によって生じた損害をこの保険で賄うことができる、ということであろうか。これは、ひとつには「専門家とは何であるか」よりも、「何をすることによって引き起こされた損害か」こそが大事であるという、優れてアメリカ的なプラグマティズムがその根底にあるからではなかろうか。証券自体が前掲図表のとおり「専門家サービス」の意義を中心に組み上がっていることがその証左である。その理由の一つとして、アメリカでは税務の独占性がないことが挙げられるかもしれない。

*公認会計士も税務申告書の作成・提出をすることができる。注18ただ、登録代理人との職域区分ははっきりしない。

注18 前掲書ケネス・A・コスケー他著「会計専門家の法的責任と危機管理の手引き(初版)」〔プラクティショナーズ・パブリッシング社〕(2,000)の第2章「法的クレームの理解―発生理由と対応法」第204節「税務契約」で紹介されている争訟事例9件はすべて、公認会計士が携わった税務申告案件である。

ページトップへ戻る