3.アメリカの現状

(6)「会計専門家」の意義とその保険制度

ここまで、アメリカの専門家責任賠償保険における「専門家サービス」概念について紹介してきたが、念のため申し添えると、これは飽くまでも保険制度における概念であって、アメリカには厳然として「専門家」概念がある。そのことは、先に紹介したインターネット情報からもお分かりいただけると思う。
そこで今後の理解を助けるため、いわゆる「会計専門家」の意義とその保険制度について簡単に触れておこう。アメリカのネット上のprofessional liabilityという言葉のなかに見られる保険制度のうち会計業務に関するものについては次のような特徴が見られた。それは、その保険制度が公認会計士(Certified Public Accountant)に対するものと、会計専門家(Accountant)に対するものと、ふたつ用意されているということである。

①公認会計士(Certified Public Accountant)

公認会計士については、アメリカ公認会計士協会(AICPA:American Institute of Certified Public Accountants)が1967年に創設した「会計専門家責任保険プログラム(the Accountants Professional Liability Insurance Program)」がある。
これには次のような説明がなされている。
「AICPAは、その品質が会員各位にとって有効な会計専門家責任保険プログラムを、1967年に創設いたしました。専門家責任訴訟の高額負担と深刻な結果については、今日、公認会計士事務所にとって包括的な防御が大変重要になっています。」
この間の事情については、前掲したケネス・A・コスケー他著「会計専門家の法的責任と危機管理の手引き(初版)」第1章「法的責任と危機管理」(参考文献4)が参考になる。そこには次のような記述がある。
「CPA事務所に対してなされる法的責任の賠償請求(クレーム注19)は、比較的最近の現象である。1970年以前、この種の賠償請求(クレーム)は比較的稀な出来事であったが、1970年以降この種の賠償請求(クレーム)は劇的に増加し、最近では、平均して、専門家120人に対してほぼ年1件の割合で発生している。これは、あなたの事務所が30人の専門家を雇っていれば、平均してほぼ4年に1件専門家責任賠償請求(クレーム)に直面することが予想されるということである。のみならず、この種の賠償請求(クレーム)の頻度が増加するにつれ、CPA事務所に対する賠償請求(クレーム)の苛烈さもエスカレートしているのである。今日、大規模CPA事務所は常時1億円を超える賠償請求(クレーム)を抱えており、監査業務を行っていない小規模事務所にとっても、100万円を超える賠償請求(クレーム)に見舞われることは異常なことではない。」(第100節第100.1小節)注20

注19 claim. これも訳しにくい言葉であり、請求(権)、債権などの訳語を当てる場合もあるが、ここでは『賠償請求(クレーム)」とした。日本でいう「苦情」とは必ずしも同じではない。
注20 なお、会計事務所KPMGの税務関係契約書「標準約款(Standard terms and Conditions)」に次のような条項がある。「本契約により提供されたサービスに関して生じたKPMGの顧客に対する責任は、その理由のいかんを問わず、これらサービスに支払われた報酬をその上限とします。」会計事務所の提供サービスに対する意識を知るうえで興味深い。

このプログラムには現在、次の3つがある。

  1. CPAバリュー・プラン(The CPA Value Plan)
    有資格者3名、年間売上30万ドルまでの事務所向け。
  2. プレミアー・プラン(The Premier Plan)
    特別な保険範囲を必要としている事務所、有資格者3名以上、年間売上30万ドル以上の事務所向け。
  3. 大規模事務所向け(The Large Firms Unit)
    (ビッグ5を除く)トップ100事務所と特殊な需要のあるグループB向け。

このプログラムの運営は、AICPA専門委員とAICPA従業員を含む個人保険プログラム委員会(PLIP)によって行われている。PLIP委員会は、CNAインシュアランス・カンパニーズを初めとする保険各社と提携している。詳細は次のサイトをご覧いただきたい。(URL=http://www.cpai.com/products/buscov/apl.php3)

②会計専門家(Accountant)

米国では、学術書や実務書で広く"accountant"という言葉が用いられているが、これは必ずしも公認会計士を指すものではなく、企業の経理担当役員や実務担当者、場合によっては会計学者をも指す広い意味で使われていることが多い。事実、専門家責任(professional liability)あるいは専門家賠償(professional indemnity)を対象とする保険は、"accountant"をひとつのジャンルとして独立に分類されているが、これには広く会計に携る人々が含まれている。
専門家責任保険(professional liability insurance)は大変発達しており、会計専門家を含む各種の専門家責任について保険が整備されているように見受けられる。 ここにいう会計専門家(Accountant)の中に登録代理人(E.A.)が入るのかどうかは分からなかったが、おそらく入らないのであろう。先にも触れたように、我々はややもすると「専門家」概念から入ろうとするため、かえって理解を妨げている節がある。すでに登録代理人(E.A.)向けの保険制度の存在が明らかなので、徒らな概念遊びは避け、先へ進むこととする。

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