6.CAMICO副社長講演録

中央はCAMICO副社長ロナルド・クレイン氏

サンフランシスコに到着した翌朝、カリフォルニア会計士会(以下、CA-CPA)グループは、午前中にCPA職業賠償保険を扱っている保険相互会社『CAMICO』副社長クレイン氏(Mr.Ronald B.Klein)、午後はCA-CPA協会副会長(Ms.Sandora L. Collins)の講演とディスカッションで充実した(慌しくハードな)視察研修の初日を体験した。

【CAMICOの誕生】

カリフォルニア州CPA協会が母胎となって設立された保険相互会社である。本店はレッドウッド市のCPA協会内にある。彼の話しによれば、会計事務所に対する損害賠償請求は1970年以降増加し始め、80年代になると金融危機にともない会計事務所への賠償請求が急増した。米国の保険業界では以前から職業賠償責任保険は商品化されていたが、同時代には会計事務所からの保険加入を引き受ける保険会社がなくなってしまった。そこで、CPA協会の会員が主体となりCAMICOを設立したのである。

【CAMICOの現況】

現在、CAMICOに加入しているCPAオフィスは2,896事業所であり、保険対象者は、15,126人である。CA-CPA会員は、各人が任意でCAMICOに加入していることを考慮すれば加入率は極めて高いことになる。加入している事業所の規模で最大のものは370人を抱えるところもあるが、1人事務所が全体の25%を占めている。また、一つの事業所あたりの保険対象者となるスタッフは平均5人である。年間の平均的な事故発生率は4%に止まり、会計士専門保険会社としては、全米2位の規模に成長している。そして、設立当時の加入者には、設立時の出資額分を既に配当している。

【CAMICOの特色】

CAMICOは事故発生率を引き下げるために、CA-CPA協会とは別に独自の賠償事故が発生する前の事務所のリスクマネイジメントに関するプログラムを実施している。また、賠償請求額を少なくするために、事故発生後速やかな事故通知指導をしている。これらの努力は、加入者はもとより引き受け保険会社にとっても利益を享受するものである。

「加入者の規模は、日本の税理士事務所の規模とさほど変らないが、BIG4などの巨大事務所は対象ではないのか?」
「彼等は、独自の保険システムをもっており、対象にはならない」
「会計事務所のリスクマネイジメントについて、どのようにお考えですか?」
「第1に事務所の品質管理システムの構築です。第2に損失の防止策です。
換言すれば、上質な仕事をし、危ない仕事に手をださない。そして、保険に加入し、事故が発生したら速やかに保険会社に通報し自分で解決しないうことでしょう。」
「平均的な保険料はどのくらいですか?」
「その事務所の、平均年売上の1%程度でしょう」
「税務に関する事故事例についてお聞かせください」
「税金の保険事故は、カリフォルニア州では、平均7万ドルの請求額で、そのうち弁護士の報酬が25%を占めている。税務の保険事故で多い事例は、税法をすべてにわたって適用しなかったミスが事故となり、これらが、事故件数の4分の3を占め、賠償額では3分の1にのぼります」
「保険でカバーされる専門職業的業務はどのようなものですか?」
「フォーマルな信頼、基準の再検討、他の職業的な協会(CA-CPA以外)、公認会計士の通常的なサービス、AICPA(アメリカ公認会計士協会)がスポンサーになるプログラムに関連したアドバイス、また、どのような国の社会で会計士業務と関係のある委員会のメンバーとしてなされたサービスを保証しています。」
「保険が適用されないケースは、どのようなものがありますか?」
「①国際的な不正行為:被保険者の不正直、不正、犯罪行為、手抜かりのために生じた請求です。これらには、被保険者が市民の共謀に扇動されたと被保険者が訴えても適用されません。②身体的障害/財産損害:中傷による感情の悩みのためによる損害は適用されません。③被保険者による請求は適用されません。④被保険者が別の立場でなされた保証行為も適用されません。具体例としては、CPAが慈善団体の役員として保証したことによる賠償責任がありました。⑤法の規定がない限り、刑罰や刑事上の損害賠償は適用されません。⑥保険料金にかかわる係争中の請求。大体このようなものでしょう。」
「保険事故が発生した後、速やかな報告が損害を少なくするとおっしゃいましたが、具体的な事例はどのようなものですか?」
「事故の報告は、保険の保証期間とも関連する重要な事項です。事故発生が何時なのか?保険証券有効期間内なのか?遡及して支払いが可能なのか?等、保険会社の立場からは大変な重要事項です。しかし、同時に加入者にとっては、傷口を広げないためにも重要なことです。
つまり、賠償請求された時、通常は弁護士からなされるが、本人が対応する場合に法律上不利なケースが多い。賠償請求の内容は本人が一番理解しているかもしれないが、事故の事例は保険会社(法律部門)の方が頻繁に経験したノウハウがあり、当社に速やかに報告される方が結果的には良い」

【講演を聴いて】

CAMICOは、CA-CPA協会会員の自然発生的要請から生れたシステムなのか、CPA協会が制度的に自らを守るシステムを作ろうとしたのか?保険と言うものは、その両方がキッカケなのかもしれない。しかし、CAMICOは、事業体としての主体性をもってその運営を行なっている。任意加入であるからこそ、協会と離れて独自のリスクマネイジメントプログラムを加入者に提供できる。Mr.Kleinは、半袖シャツに綿のジャケットを羽織った巨人の風貌とは裏腹に、会計事務所が抱えるリスクについて細部まで理解し、会計実務家が見落とすリスク(簡易と思える事故を自分で解決できると錯覚するなど)をずばりと言った。生保会社が「あなたの健康管理は大丈夫ですか」というように、易とも簡単に「あなたの事務所は良い仕事をやっていますか、危ない仕事に手を染めていませんか」と尋ねて保険を勧めるのには彼のプロ根性を垣間見た。
「プロフェショナルな彼は、そのうち自分が加入する保険を開発し加入するかもしれない」なんて、ふと思ったのは、やはりJet-lagか居眠りのせいか…… この度解り易い通訳をしてくださった、CPAの長島信男先生に感謝の意を捧げる。勿論、コーディネイトされたKiwata先生にも。ありがとうございました。最後に、参考資料として①Camicoが作成している保険事例の資料として「会計専門家保険証券」、②米国における法的責任と会計専門家の資料として「法的責任と危機管理」及び③契約のクレームの資料として「法的責任クレームの理解-発生理由と対応法」の紹介をします。

(田中 善雄 担当)

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