HOME 税理士の方へ 国際部レポート 2000年 米国調査研究視察報告 Ⅰ.米国総合会計事務所の実態について

Ⅰ.米国総合会計事務所の実態について

内藤氏講演
(小見山氏による講師紹介)

1.はじめに

現在税理士法の改正が行なわれており、将来の日本でも税理士法人や、弁護士など異業種の人との総合会計事務所の設立が考えられています。
そのため、米国における総合会計事務所の実態について調査研究し、日本でも設立が可能になった場合の参考とすることとしました。以下はKPMGの内藤哲哉氏の講演の要旨である。

2.米国会計ビジネス最新事情

米国で会計ビジネスを行っている人は、公認会計士が約33万人、Enrolled Agentが約3万5千人、他に弁護士や公的な資格の無い人も会計ビジネスを行っている。Enrolled Agentや公的な資格の無い人は、主に個人とか、小規模な顧客を対象として税務ビジネスをしている。米国では、国民全員が個人所得税に関して確定申告書を提出しなければならないため、上記の人たちが会計ビジネスを支えている。公認会計士は、いわゆる5大監査法人のような会計事務所や、全米ネットの会計事務所、地域の会計事務所で働いている人よりも、どちらかというと、企業内の税務部門や経理部門で働いている人のほうが多い。弁護士については、裁判になったときの代理人として税務専門の弁護士がいる。当然契約や訴訟関連の業務にも携わっている。また最近増えてきているのがエコノミストである。エコノミストは、日米間で関連会社が取引をするときに、最初に必ず問題となる移転価格の決定に関し、経済的な分析を元に適正な移転価格を決めている。

3.会計事務所統合の動き

現在米国では、会計事務所の統合というのが、一つの合い言葉になっている。会計事務所と言えども一つの利益団体であり、いかに一人あたりのパートナーの利益を上げるか、一人あたりの従業員の利益を上げるかということが常に考えられている。統合することにより、人事、経理、品質管理、専門情報の支援といった間接部門の効率化が図られることになり、当然職員の稼働率が上がることになる。また統合によりIT投資や宣伝投資についても、かなり効率化できるようになる。IT投資については最近金額が非常に大きくなってきており、人事システム、経理システム、品質管理システム、公認会計士の独立性をチェックするシステム、専門情報を支援するシステムなどの投資が効率化でき、投資利回りが良くなる。さらに、お互いに得意の分野を生かした幅広いサービスが提供できる。人数が多くなるため、一つの会社を子会社を含めてネットワークを使い企業グループ全体にサービスが提供できる。大きくなればイメージが良くなる。人数が多くなれば、常にオフィスにいるわけではなく、顧客のところに行ったり自宅で働いたりするため部屋を共同で使用するようになり、一つの部屋の稼働率が高まる。すなわち、統合すると空いているスペースの効率的利用が可能となる。統合するとこういったメリツトが生まれるため、会計事務所では常に統合先を考えているのが現実である。
また、最近地域間の統合というものが話題になっている。これは情報関連の投資が非常に重いため、米国だけではなくメキシコやカナダも統合しようとか、中南米やヨーロッパも統合しようとかする地域統合というものが進んでいる。アジアの場合は言語が違うため地域統合は進んでいない。

4.総合会計事務所の組織

総合会計事務所の組織としては、監査関連の部門、税務関連の部門、コンサルティング関連の部門の三つがあり、これを、生産財関連の業種、消費財関連の業種、ハイテク関連の業種、金融関連の業種、医療関連の業種、政府機関関連というように事業別に分け、マトリックスで組織ができている。監査関連の部門では、財務諸表の監査、IT関係の監査、財務的なアドバイスを行っているが、最近では内部監査のアウトソーシングや経理部門のアウトソーシングも行っている。税務関連の部門では連邦税、州税等の所得税関係、関税、売上税、また日系企業ではその他に移転価格の税務関係を行っている。コンサルティング関連の部門では、人事システム、経理システム、ビジネスシステム等の導入の手伝いをするIT関係や、M&Aの時などに行う企業鑑定、固定資産の原価配分等を行っている。

5.部門の独立への動き

監査部門、税務部門、コンサルティング部門のうち監査部門については、顧客に対して牽制を働かさなければならないため、独立性がなければならない。その点が大問題となっており、コンサルティング部門については、会計事務所から独立していく流れになっている。また、税務部門についても、監査をしたら税務のほうを行うのは独立性の問題に関わるという基本的な合意はあるが、今のところ、会計事務所の利益の確保の点や、顧客も情報のやりとりに都合がよい等の理由から、税務部門の独立の流れはでていない。
しかし、証券取引委員会から見れば、税務と監査を一緒に行うことには問題がある。またコンサルティング部門に関しては切り売りが流行っている。その切り売りに関しては、将来の利益を当年度の利益の何倍というように、将来の利益を先取りしてその価格が出てくるため一気に何年間もの利益を得ることができ、したがって切り売りが盛んに行われている。

6.総合会計事務所の問題点

ビッグ5のような監査法人では、最初スタッフやアシスタントがものをつくると、それをシニア、マネージャー、パートナー、最後は品質管理のパートナーがレビューする。
統合して大きな監査法人になればなるほどこのような仕組みになるため、どうしても間接費が増える可能性があり、顧客も高い報酬を払うことになる。

KPMGの内藤氏講演

7.米国の好景気が業界に及ぼす影響

現在米国は好景気が続いている。そのため、ハイテク企業を中心として、公認会計士もどんどんそちらにいってしまい、会計事務所では監査する人や税務アドバイスする人が少なくなっている。したがって人材が逼迫しており人材確保といのが大きな課題になっている。
また、日系企業などストックオプションをやっていない企業は、経理部門の人材がいないところも多く、利益が出ているのに決算ができない企業も多い。したがって経理のアウトソーシングの依頼もあり公認会計士も潤ってはいるが、仕事量も増えており、好景気と 言っても全てがうまくいっている訳ではない。

8.事業形態

会計事務所の事業形態はパートナーシップである。しかし、一般のパートナーシップは無限連帯責任を負うため、最近はLLP(Limited Liability Partnership)という形態が多くなっている。LLPは、有限責任パートナーシップで、関与している人は無限責任を負うが、他のパートナーは、出資額を限度として有限責任を負うに過ぎない。

9.他の州の情報の入手方法

支店を有しない事務所が他の州の情報を入手する方法は、業界誌を使ったり、インタ ーネットで検索したりして入手している。

10.顧客の開拓方法

新規顧客開拓については、基本的には日本と同じように提携先からの紹介が多く、他にはコミュニティ活動により、新規に顧客を獲得している。

11.利益の配分方法

利益の配分方法は、パートナーの間では、最初に固定されている部分があり、次に業績によって評価されるボーナスがあり、最後に残りの利益部分についてそれぞれのパー トナーシップの持株数に応じて分配される。

12.異業種との提携-弁護士

会計事務所のパートナーは、公認会計士でなくてはならない。パートナーで弁護士の人というのは必ず公認会計士の資格を持っている。米国の公認会計士協会のルールでは、弁護士が会計事務所に入ったら弁護士としての仕事はできない。税務裁判所には出廷できるが、顧客のために普通の裁判に出廷することはできない。会計事務所で抱えている弁護士は、会計事務所が失敗したときなどに訴訟をされた場合困るからという理由で抱えている。顧客に法律の問題が発生した場合や顧客にコンサルティングをしようとした場合、顧客の弁護士と話をするため、その弁護士とチームを組んでやるということはあるが、会計事務所の弁護士と組んで監査を共同事業で行うというようなことは無い。

13.おわりに

会計事務所は、常に独立性の問題を抱えている。顧客にとっては監査部門も税務部門も同じ会計事務所のほうが情報が共有出来る点でコストが下がる。また会計事務所も利益追求のためには、この二つは一緒のほうがいいと考えている。しかし将来は、独立性の問題がある限り、監査と税務は必ずしも一つになっていくということは無いであろう。また日本でも税理士法人の設立が認められるようになる。そうすると当然会計事務所の統合という話題もでてくるであろう。二つが統合すれば一人ではなかなかできなかった幅広いサービスができるようになり、会計事務所の収益性や成長性を高めることになる筈である。その意味で今回実際聞いた「会計事務所は常に統合先を考えている。」という話は、我々税理士にも近い将来起こり得ることであり、改めて規制改革のまっただ中に いることを感じた。

(注)米国総合会計事務所の実態については、KPMGのAssurancePartner内藤哲哉 氏の講演記録を基にしている。内藤哲哉氏は約13年前にピートマーウィックの東京事務所に入り、4年間程東京で外資系企業の監査をした後ロサンゼルスに渡り、現在は南カリフォルニアを中心とした日系企業の監査を行っている。

(伊東晴俊 担当)

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