第9章 視察感想文

Ⅰ.米国税務専門家制度調査報告(2000/10/4 ~ 10/12)

その1 日系人は電子申告嫌い。?

「電子申告はどのくらいの件数をしておりますか?。」
「私は電子申告はしておりません。ユーザーが望みませんから…。サイトセキュリテーを懸念し日系人は、申告情報をサイトから覗かれるのを嫌がっている様です。」

日系人の個人営業・会社を対象として税務申告業務をしている、帰化日本人EA(ユーザー160件 ・年収$260,000)のレクチャー後の質疑応答のやりとりです。
この返答を聞いた時、日本で今、2~3年後に導入予定の「電子申告制度」は日本(人) に定着するのだろうか?と疑問が生じた。電子申告は、依頼者の承諾なく税理士事務所サイドで無断で電子申告はできない筈。ハッカー等々の話題のあるこのご時世。日本の納税者は税理士に申告依頼する時(日本人の国民性からして)電子申告を望む人はどの位いるのだろうか?
日本では割合に少ない気がします。最も、所得税申告の場合には日米で基本的に違いがある。日本ではサラリーマン等は勤務先の会社での「年末調整」でほとんど納税は終了しているが、米国の場合は「年末調整制度」は無く、サラリーマンでも収入が有れば、自分で申告(自己責任社会)をしなければならない。その年間申告枚数は、1億8千万枚位(日本では考えられない申告枚数)とのこと。これに対応する資格者は、CPA(公認会計士)33万 人 ・LAWYER(弁護士)99万人 ・EA(tax agents?)3.5万人の数では、依頼されても申告書を処理仕切れるものでは無い。  こうなると(複雑な申告書は別にして)簡単な申告(例・給与と利息収入のみ、申告要件は簡便)は依頼するよりも自分で申告をしなければならない。 1億8千万枚の申告書を、納税者がTax Officeに1枚1枚提出した場合、双方に、時間的にも、距離的にも、相当なる煩雑になることは想像できる。
ましてや、州によっては、都市部を離れ、隣家に行くのに1時間もかかるファーマー地帯のことも考える時、コンビニ店舗の片隅からでもできる米国での電子申告の必要性がこのあたりにある。
また、無資格個人でも依頼により申告書を作成できること。申告書を作成する業務会社・業者が多々あること。も、膨大な申告書枚数・国土の違いから見ると、容易に理解できる。
米国に「電子申告」が進んでいることが、日本でも同様に進むかは、背景の違背景の違いを考えた時、一概にいかないのではないか。?「電子申告 電子申告」と、大騒ぎする前に自分自身の申告のことと考えて、1人1人が、自問自答する必要があるのではないでしょうか。
最も、「電子申告をした納税者には行政費用も削減できますので、税額の3%を減額します」との政策をとれば、納税者に受け入れられるかもしれません。

その2 「ファイヤーウオール」とプライベイト情報

電子申告に関連して、コンピュータの情報サイトセキュリテーについて一言。
米でも、電子申告による不正還付等が、大きな問題になっているとのこと。
今、日本では「電子申告」「総合課税」「国民総背番号制」「住民票コード個人番号制 」と、その導入論議と同時に、「個人情報保護」も論議されている。 プライベイトは守られなければならないと。政府は、言葉と文書では、その対策を図るとしています。(夢物語りでしょう)
最新セキュリティーソフト「ファイヤーウオール」についても、専門家に遭えば簡単に破られるとのこと。 それは丁度「ビル荒らし」対策に、カギ等の防御を如何にしても、プロの「ビル荒らし専門家」に遭ったら、入られてしまうことに似ています。
帰国後、ある先生が「これからのグローバルなINTERNET・IT社会では、個人も会社も、その情報は世間周囲に筒抜けになっていると、覚悟を決めて生きて行かなければならない時代だね。
自分のどうしても、守りたい秘密があったら、それは、パソコンに入力しない。 紙(届出書を含む)にも書かない。 携帯電話も使わない。秘密は単に自分の頭の中に入れておくしかない。電話のなかった時代の様にね。」との発言は、これからの人間の生き方、及び経営のやり方を指向しているような気がします。
NHKで、世界中に飛び交っている電波(携帯電話も含めて)の情報を自動的、機械的に集めている基地施設を、米国は既に持っているとの特別番組を見た時、携帯電話の使用の仕方も考えなければならない時代の入っているのでは。 プライベイトの保護も「自己責任の時代」でしょうか。

その3 「連結納税」(連邦税)は?

「連結納税を、どう思いますか?。」
「日本でも色々議論している様ですが、米国の様な方式の連結納税は、国情が違いますから日本では止めた方が良いでしょう。」

ロスで、日本からの米国への投資を、コンサルタントしている長島CPAの意見でした。(以下はその要旨です。)
「今の米の連結納税は、日本で言えば「東京本店と各県支店」を合算して申告している様なモノです。日本では、全国統一的な商法、法人税法及び地方税が前提で、本店も支店も設置されますから、税も、単純に一定分割基準で、計算処理しても大きな問題はありませんが、米では、州によって会社法(日本の商法に類似)が異なり、支店を設置する場合も、州によってその設立方法が異なり、登記も登録税もバラバラ。 また更に、州税・市税 (州政府・市政府と呼ぶ程に自治権を有する)もその課税の仕方がバラバラです。(注 課税標準計算課程も、分割基準も、税率も、州によって異なり、中には法人課税の無い州もある)この状態では、各州に所得を分割するには、膨大な複雑計算をしなければならない。
連邦税法のみならず、支店の存在する各州の税法、各市の税法を理解しながら。
(申告書のフォームも異なるでしょう。)
日本のように、ある分割基準で、各県各市町村に機械的に、分割することはでき得ない。この複雑事務を避ける為に、支店設置をする時は、その州で別法人設立をせざるを得なくなっている。別法人でも実質的には支店であり、実質的同一法人との見地から、現在の米の連結納税(連邦税)が成り立っている。(更に、全体税額を一定基準で実質支店の別法人に配分する)
連結納税制度は、米国方式、英国方式、独方式と種々あるが、米国の連結納税は理論的には一番良いとされている。 が、その内容を見ると「内部利益除去」「課税の繰延計算」等々と複雑なことこの上ない。学者的見地の連結納税に、どれ程のメリットがあるのか疑問を感じる。日本の連結納税方式議論は、赤字子会社と連結して親会社の納税を少なくしたいとの意識が強い。その見地にたった時、英方式にある利益会社から赤字会社に金銭支出し、利益会社ではその支出は損金に、 赤字会社ではその入金を益金に処理出来る単純方式(実際には、それ程単純でない)の方が、学者的理論方式で実務に困難を来すより、メリットがあるのではないでしょうか。
但し、不法適用を壁けるため「関連会社間の契約」「入出金方法」「議事録決議」等々、相当なる厳格要件を付す必要がありましょう。
「連結決算」と「連結納税」は、全く別物で両者に関連はないが、決算後の「親会社監査」「関連会社監査」「個別会社決算と税額計算」「親会社での連結決算」「親会社での連結納税計算」「関連会社への配分税額計算」等々。ある先生が6ケ月程の期間がほしいと、発言していますが。

その4 「ロス界隈あれこれ」

「このフェリー船での結婚式費用の支払いは、クレジ ットカード払いでしょう。その決済日には別のカードで借入をするでしょうから。 米国人の家計資金は自転車操業ですよ。一人でカードを10枚程持っていますから。今は良いかもしれませんが、収入が減れば自転車操業も破綻でしょう。」湖観光の時、岸壁からフェリー船上での結婚式をみていた時、案内してくれた現地JTBガイドが発した言葉です。世界は爆弾を抱えているようです。
激しい競争社会の為か。会社幹部の早朝出勤で、朝の6時~6時30分、市の中心部に向かう高速道路はラッシュで混雑している高速道路は無料のためか「フリーウエイ」と呼ぶ。その「フリーウエイ」にはガードレールが無い。運転を誤ったら、フリーウエイを外れてそのまま土手にズドン。後ろの車は、今までの走行通りスイスイ。後続車には迷惑を掛けない。この方が死亡事故は少ないとのこと。合理的なのか?
自己責任の社会なのか?参考になりました。
車両高速代は無し。ガソリンの売上税(消費税に類似)は非課税。高級住宅街のビバリーヒルズに以前はあった市電の会社を、自動車メーカーが買収し、市電を撤去して今は自動車道路に変身。自動車メーカーの策略を感じる米国の車社会です。
(全米でも、他の国と比較して国土の割には鉄道は少なく、かつて悲願で建設した大陸横断鉄道の面影は小さい)「ロスとサンフランシスコ間は、東京ー大阪間位なんだから、車と飛行機ばかりでなく、新幹線でも走らせたら便利だと思うのだが…」と。シャトル便飛行機の遅れにいらだった団員の声。
それにしても、売上税の税率が8.5%とか8.25%とか、参考文献によると、ある州では4.624%と下3桁端数迄ある。下2~3桁迄あるのはどういうことだろうか?じっとレシートを見る。
「あの恥じらいのような表情は、今の日本の女性には見られないですね。」
レクチャアーの休憩時間に、タバコを吸っていた某団員のつぶやきの言葉に、共感を覚えた。日系2世の女性EAのレクチャーを受けた時、説明にまだ不慣れなのか、時々、とちったりした時に見せる(かつての日本人女性が、元来持っていた独特の恥じらい的な貴重な)表情を見逃していなかった。
「あれは、二宮金次郎の像じゃない ? !!。」との声に「まさか?」と振り返って見た。
それはまさしく、「リトル東京」の一角に立つ「二宮尊徳」の2m余の像であった。 おそらく、日本精神を忘れない為に日系移民の浄財で建てたものであろう。日本では最近、余り見かけなくなってしまった有名なこの像を、ロスで見るとは…。日本人が本来、歴史的に大切に持っていた日本的な心・精神・感情は、日系移民の中でしか見られなくなってしまったのだろうか。と、上の2件に接して感傷に慕ってしまった。
ロスの「リトル東京」も不景気とのこと。 かっての日本経済バブルの時は日本人「銀行マン」「商社マン」で活況を呈していたが、米国国内での銀行不詳事件、日本バブルの崩壊も重なり、銀行の撤退、商社の縮小等々で不況の風が「リトル東京」にも及んでしまった。近くにあった「ヤオハン」の店舗を覗いて見た。1~2階は新規テナントが何とか入っていたが、3階部分はロープがはられ出入り不能で、正に強者どもの夢の跡の感じでした。日本の会社が、バブルの時に買ったロスの有名なビルが、未だにそのまま所有されているとのこと。現在の値段は半値以下。何件のビルがあることやら。まだまだ日本国内のみならず、外国でも、バブルの傷跡は深いようです。

(高柳 幸雄 記)

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