第9章 視察感想文

Ⅳ.米国は素晴らしい国か

(旅への参加)

私は非常に忙しい。休みもあまりとらないのに、申告の締め切りに追われ、毎月ふうふう言っている。といってもけっして人並み以上に仕事の依頼が殺到するというわけではない。東京会でも有名なK先生やY先生などは多分私よりかなり多くの仕事をこなしていると思われる(比べるのも失礼か?)が、仕事以外でも色々と活躍されている。要するに私は仕事が遅いのである。こんな私が月の初めとはいえ、はたして10日間の視察旅行に出かけられるのだろうか?こんな不安を抱えながらも、規制緩和待ったなしといわれる今、是非米国に行きたいという気持ちが勝った。税務審議部の委員となっていることもあるが、今回視察に参加することとなったのである。ちなみに私は連結納税班に属することとなった。

(米国は遠い)

旅行の参加者は幸い顔見知りが多くその点では不安は無かったが、何せ片道往きは9時間帰りは11時間の長い空の旅である。東へ向かう空の旅はキツイ(日付変更線をこえるため)といわれるが、年のせいか最後まで時差ぼけが解消しなかった。寝るときは良いのだが夜中の3時、4時に目がさめてその後が眠れない。昼間はみっちりセミナーが組まれていたので非常にきつかった。

(充実した日々)

着いた日に組まれている市内観光はだいたい寝不足の解消に当てられる。以前は、研修旅行に必ずと言っていいほど組み込まれている初日の市内観光を、なんと不謹慎なものと思っていたが、これは必要なのである。だいたい10時間もろくすっぽ眠らず飛行機に揺られてきたものが初日から使いものになる訳がない。かといって、たまたま寝られた人のため、昼間からホテルで休む訳にもいかない。観光しながら体を休めて翌日に備えるのである。二日目からはじまったセミナーや視察は、かなり充実したものだった。その内容等は他の報告にゆずるが、朝10時からはじまり夕方の5時まで休憩時間はあるもののたっぷりと行われた。惜しむらくは、私の属する班では当初予定していた視察ができなかったことである。セミナーが終わったあとのお楽しみは夕食に何を食べるかである。夕食は各自あるいは各グループ三々五々でそれぞれがステーキ、中華、和食など色々楽しんだようである。このような充実した日々を送った。

(米国の士業社会①)

「米国は自由競争社会である」といわれている。なにせ会計士は44万人(AICPA会員33万人、非会員11万人[推定])、弁護士は90万人いるらしい。そのほかEAだの記帳代行会社だのもう訳がわからない。またビッグ5といわれる監査法人は、全世界であるが社員数35万人、売上高5兆円(売上といっても事実上の粗利である)といわれている。規制緩和論者の人たちは自由競争にすればこのような巨大なマーケットが生まれ、関連業務も考えれば膨大な新しい雇用が生まれ、土木国家である日本の建設業にかわる新しい柱のひとつにしようと目論んでいるらしい。ことの真偽はともかくとしてホテルの窓から見える高層ビルに監査法人のロゴが見えると成る程なと思えてくる。そんな中で日本人がけっこう頑張っている。今回の講師あるいは通訳としてご協力いただいた方たちである。KPMGのパートナーである内藤氏、米国CPAで独立してLAで事務所を構えている長島氏、EAの渡辺氏である。各氏の米国で仕事をするようになったご事情はそれぞれおありだろうが、成功者らしく米国社会を肯定的にとらえておられるように感じた。異国の地に赴き成功に至るまでは並大抵の苦労ではなかったと思う。たいへん敬服させられた。

(米国の士業社会②)

米国は意外と小さい事務所が多いらしい。大監査法人に属する内藤氏はともかく、長島氏・渡辺氏は比較的小規模な事務所を運営されている。その他カリフォルニアCPA協会に所属している会計士もけっこう小規模な事務所を構えている方がいるようである。それは何故だろうと他のメンバーと話したら、監査法人の報酬が非常に高いのではないかという意見があった。日本でもそうであるが、監査法人の報酬は非常に高い。米国も日本と同じように小規模の法人が多く、高い報酬を敬遠するあるいは払えないむきも多いのではないだろうか。自由競争が進むと寡占化というイメージがあるが、必ずしもそう言えないところがあるのだろう。但し、個人の簡単な所得税の申告はH&Rブロック社などが廉価で大規模に行っている。なお、会計士の仕事の多くは監査ではなく税務申告である点も日本とよく似ている。

(むすび)

今回の視察は日本社会の構造が大きく変わろうとする時期に、税理士業界がどのように対応すべきかというその進路を探りにでたものである。事前に思っていたように米国は自己責任原則を貫く自由競争社会であった。日本もこれからそのようになるのであろうか。確かに流れとしてはそのとおりであるのだろうが、私としてはそのように考えたくない部分もある。誰にでもチャンスがあるという事は確かにすばらしいが街中でホームレスが目立つなど敗者にたいしては厳しい現実もある。経済の状況が良いときはよいが、いったん不景気になると矛盾が吹き出るような気がしてならない。米国ではIT革命の進行とともに中産階級が没落している。ただ救いは物価の下落と好況のため賃金は低いながらも転職先があったということである。日本は不景気下でのIT革命の進行ということになるため、現状はお先真っ暗ということになってしまうのかもしれない。米国の良い点をとりいれるべきだが、決して日本の良い点を捨去るべきではないと思う。
近い将来に税理士業が完全な自由化となるとは考えられないが部分的な規制緩和が進むと思われるので私たちもその対応には頭を悩ませる時がくると思われる。今回の視察の成果を自分なりにまとめて対応の一助としたいと思っている。

(福島 秀一 記)

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