第9章 視察感想文

Ⅵ. 米国視察旅行して思うこと

1.米国会計業界の印象

米国のCPA(以下「AICAP」という。)は約60万人いるらしい。そのらしいというのは、日本とは違い、AICPAの業界団体の加入は任意。AICPAの加入者は33万人、未加入者は多分それと同じ数の人がいるらしい。大変な数である。会計業界を一つのサービス産業として捉え、自由競争させ、品質を高める戦略のようだ。CAPの試験は各州ごとに行われ、比較的やさしいらしい。しかし、2年ごとに更新制度があり、2年間で80時間の研修を自費でしなければならない。たえず、自己研修し、レベルアップしなければならないシステムになっている。日本と米国の大学入学試験、大学卒業試験のシステムと類似している。日本では大学入学試験が難しく、米国では大学卒業試験が難しい。
今回の米国視察旅行から戻って、脳裏から離れないことがある。それは、米国において、「税務は国家資格のない者ができる」「誰でも税務の仕事ができる」ということである。米国に行く前に、何度か研修会で聞いたり、調べたりして、税務調査立会い位は一定の資格がいるだろうと考えていた。しかし、米国に行って見て聞いて、税務調査立会いも誰でもできるという事実にショックを受けた。そして、その視察旅行から戻ってきてから時間が立つほど、そのショックの度合が日増しに強くなってきている。
今日、我々税理士が安定的に仕事ができるのは、税理士業務が独占であるからだ。税務は税理士という国家資格を必要とするからだ。ところが米国では、税務は独占業務でない。監査だけが独占業務である。その独占的国家資格を持って仕事をするのか、それがなく仕事をするのか、天と地の差がある。多分、私は同じ仕事をしてもFeeがかなり違ってくるだろうと思う。
さて、現在日本の規制改革委員会の公認会計士改革案なかで、公認会計士の数を増加しようという案がある。多分米国のCPAをモデルにしていると思う。その案のなかに、税理士等を取込もうとする動きがあるが、私はその動きに絶対乗るべきだと考えている。税務調査は税務監査で、一つの監査である。税理士は監査する能力は充分あると思っている。税理士は監査という独占業務を取得すべきだ。もし、監査という独占資格を持っても、監査をやりたくないのなら、やらなければよい。今回の米国視察を通して、米国のCPAとEA(登録代理人)との差がそこにあったように思える。
これから、公認会計士や弁護士の数を増やすため、試験合格者数をかなり増加させることは目に見えている。公認会計士や弁護士になるための国家試験が改革された場合、とりわけ公認会計士試験の科目合格制度に移行したとき、税理士試験を受験する人は皆無になるであろうことは想像できる。税理士になる人は、税務署退職者等のみとなるであろうことも想像できる。このことを考えれば、税理士試験の試験合格者として、チャンスがあれば、絶対に公認会計士移行の道を選択すべきだ。

2.米国の社会構造

米国社会の基本的理念は、「消費者の利益になるか、ならないか」だ。自由競争させ、品質を高めることは消費者の利益につながるからだ。例えばCPA業界のみの利益を図るは許されない。そのCPA、弁護士等の資格管理は消費者利益保護している国の部門が行うと聞いた。外部監査人として、国の消費者保護部門が担当している。おもしろいシステムだ。
日本にはたくさんの国家資格がある。私は税理士等全ての士業につき、外部監査制度を取り入れるべきであると考える。そうしなければ、国際的な信用はない。今の米国は、消費者のニーズを中核として、その社会システムが構築されている。近い将来の日本国も似た社会システムになるのではないだろうか。今回、米国に行って見て思うことだが、「米国社会システム」と「日本社会システム」との戦いとなった場合、「米国社会システム」が勝つと、確信を持って言える。今の米国は、消費者のニーズを中核した戦国時代の社会システムになっているからだ。

3.米国の税務署について

米国社会の基本的理念は、「消費者の利益になるか、な米国の税務署の特徴は、「Appeal Office」の存在と「立証責任は納税者にある」ことだ。そのAppeal Officeは税務署内にあり、ネゴシエイションを担当する。日本の場合と比較すれば、容易に理解できる。一般的に日本の税務調査官は調査とネゴシエイションの両方の権限を持っているが、米国の税務署はその権限を分離している。なかなか、おもしろいシステムだと思う。もし、納税者に税務調査に不満がある場合には、そのAppeal Officeでネゴシエイションして、税務調査が決着するようだ。一種の司法取引のようなことが行われる。それでも不満な場合には、裁判等に移行していくのであるが、米国の裁判に係る費用は多額(最低でも400万円程度)であるため、その裁判に係るコストを計算して、ネゴシエイションするようだ。また、米国においては「立証責任は納税者にある」が、日本においては「立証責任は税務署にある」。納税者不利になっているが、この点についても興味深い。
以前、ドイツに行ったことがある。ドイツとの比較もしてみると、ドイツの税務署の特徴は、「申告賦課課税方式」と「税務署の権利救済課」の存在だ。申告賦課課税方式はその名前の通り、申告ない者に対して賦課課税する。賦課課税された者は、ビックリして税務署の権利救済課に駆込むわけだ。日本の場合、本来申告して納税すべき者がかなりいるだろう。その者に対応するための一方法として、ドイツの申告賦課課税方式はなかなかおもしろい。

(泉 平尾 記)

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