第8章 【3】欠損金に対する制限

【Ⅲ】欠損金に対する制限

連結欠損金控除は、個別法人の課税所得計算上の項目ではなく、個別課税所得を合計した後の連結ベ-スで計算される。
連結純事業欠損金は連結納税年度に発生した欠損金と、個別申告年度に発生し繰り越し又は繰り戻された欠損金の二種類からなっている。この連結純事業欠損金の使用制限として以下の規定がある。

  1. SRLYルール
  2. 株主変更に伴う純事業欠損金の使用制限(382条)
  3. ビルトイン・ディダクション

1.SRLY(separate return limitation year)ルール

連結純事業欠損金のうちグループ法人が連結に入る前の個別申告年度に発生した欠損金は、連結納税申告において、その欠損を発生させた法人の利益とのみ相殺できる。子会社がSRLYにより使用を制限される欠損金の額は、その会社の連結後の課税所得の金額までである。 SRLY(純事業欠損金の繰越に対する制限)の目的は何か?70年代にアメリカでは損失を有する法人を購入し、利益法人である自己の有する会社のタックスシェルターとして利用することがはやった。これを防ぐため、さまざまなリミテーションルールが設けられたのだが、SRLYはその中の一つである。

(例1)SRLYルールの基本
個別納税申告 連結納税申告
X0年 X1年 X2年
P(親会社)
S(子会社)
100
△100
100
△30
100
40
- 70 140
欠損金控除 - (注1)0 (注1)△10
連結課税所得 - 70 130
※注1
Sの連結納税申告年度の累積課税所得がゼロ(△30)であるため控除できない。
※注2
Sの連結納税申告年度の累積課税所得10=40-30を限度とする。

※注
個別申告年度の親会社欠損金
親会社の欠損金は個別申告年度に発生したものであっても、連結納税申告年度においてグループ法人の利益と相殺できる。つまり親会社の欠損金はSRLYの制限を受けない。
これを悪用することを防止するため、逆さ買収のルールがある。
※注
個別申告年度の子会社欠損金
連結納税加入前の個別申告年度欠損金であっても、その個別申告年度において連結納税の要件を満たしているのであれば、子会社の欠損金もSRLYの制限を受けない。
上記の例でいえば、X0年にP社がS社株式を議決権、全株式価値ともすでに80%以上保有しており、X1年から連結納税を選択したのであれば、X0年のS社欠損金100は全額X1年のP社所得と相殺できる。

親会社P社が繰越欠損を有するT社株式を購入した場合、T社の欠損は連結納税上いつ、いくらまで使用可能なのか?

東京税理士会 アメリカ調査研究視

(原則)
T社が利益を計上しなければT社の繰越欠損を使用できない。欠損金の繰越は純事業欠損金は20年間、キャピタルロスは5年間。
(例2)SRLYルールによる繰越欠損の使用及び繰越方法
個別申告 連結申告
第1年度 第2年度 第3年度 第4年度
親会社P社 △40 0 △120 90
子会社T社 0 △50 △60 70

第3年度にP社がT社の株式を購入し、第4年度からは連結申告を選択した。連結申告年度である第4年度に使用する欠損金の計算方法は次とおり。

P社は親会社であるためSRLYルールの制限をうけない。したがって、P社の第1年度の欠損40と第3年度の欠損120はいつでも使用可能。
欠損の利用は先入先出法により、古い年度のものから順に使用する。
したがって第4年度の課税所得90+70=160の連結課税所得から、まず第1年度の損失40を差し引く。160-40=120。
次に第2年度の損失50は子会社の個別申告年度の欠損金であるため、SRLYルールの適用を受け、連結申告年度(第4年度)の子会社利益から控除する。70-50=20
これにより連結課税所得は120-50=70。
未使用の欠損金はP社第3年度の120とT社第3年度の60。
ただしT社の60は個別申告年度の欠損であるためSRLYルールの適用を受け、連結申告年度(第4年度)の子会社利益からしか控除できない。そのため第4年度のT社利益残額が上記のとおり20であるため、40は第4年度で使用できない。
(T社の第3年度損失60の内訳)
第4年度で使用不可能 40 (SRLYルールの制限を受ける額)
第4年度で使用可能額 20 (SRLYルールの制限を受けない額)
(P社の第3年度損失120の内訳)
第4年度で使用可能額 120(全額SRLYルールの制限を受けない)
連結課税所得は④により残額70であるため、これを上記20と120で按分計算して使用する。(第4年度で使用可能なP社T社の欠損額で按分する。)
P社の欠損から第4年度に使用する額
70×120÷(20+120)=60
T社の欠損から第4年度に使用する額
70×20÷(20+120)=10
以上により連結申告年度(第4年度)の課税所得はゼロとなり、第5年度へ繰越される欠損金は
P社 120-60=60
T社 60-10=50
以上のように同一年度において複数社に欠損が発生した場合には、按分計算により各社の欠損金を使用し、残額を繰越していくことになる。
したがってSRLYロスが各社、各年度にいくら残高があるのか、按分使用した後の表(スケジュール)を作成保存しておかねばならない。
SRLYによる純事業欠損金の繰戻しに対する制限
(例3)SRLYルールによる欠損の繰戻方法
第1年度 第2年度 第3年度 合計 第4年度
親会社P社 100 60 80 240
子会社S社 20 20 30 70
子会社T社 30 10 △50 △10 △30
合計 150 90 60 300

第1年度から連結納税採用、第4年度期首にP社はT社全株を外部へ売却。
したがって第4年度、T社は個別申告となる。
欠損金の繰戻は純事業欠損金は2年間。キャピタルロスは3年間。
第4年度の欠損を連結納税年度である過年度の、P社グループの利益へ繰戻せるかどうかはSRLYルールの適用を受ける。

(SRLYルールによる検討は以下の通り。)
T社の個別申告年度(第4年度)に発生した損失は、連結納税年度を通してのT社個別損益合計が損失(10ドル)であるため、連結年度へ繰戻すことができない。

※注
個別申告年度に発生した欠損金の繰戻し及び繰越は、SRLYルールの適用により連結課税所得のうち、当該会社に帰属する利益の累計額までしか使用できない。
したがって第4年度の欠損金は、第5年度以降においてT社が繰越欠損として使用することになる。
※注
個別申告年度に発生した欠損金の繰戻し及び繰越は、SRLYルールの適用により連結課税所得のうち、当該会社に帰属する利益の累計額までしか使用できない。
したがって第4年度の欠損金は、第5年度以降においてT社が繰越欠損として使用することになる。
※注
SRLYルールの逃れ方?!
SRLYルールの制限を受ける欠損金を有する子会社T社が、親会社P社と合併した。これによりT社が有していた欠損金はSRLYルールの制限なしにP社で使用できる。
※注
アメリカでは内国歳入法等に規定する一定の要件を満たせば、被合併法人の繰越欠損を合併法人が引き継げるためである。
※注
但しこの場合、合併の妥当性の判断が必ず必要となる。
※注
連結ロスの額とSRLYロスの額は別々に申告書に表記しなければならない。
S(例4)連結繰越欠損金の損益通算

P S T 連 結
1999 325 200
2000 △200
*①
△300
*②
△600
*③
△1,100
2001 100 400 150 200
(個別)

(1/1~6/15) (6/16~12/31)
*④

*①
P社の2000年度の損失200は、P社の1999年度の利益325に繰り戻し。
*②
S社の2000年度の損失300は、S社の連結申告年度の損失であるため、
*①で繰り戻せなかったP社の1999年の利益残額125(325-200)に繰り戻し。
また、S社の2000年度の残りの損失175(300-125)は、2001年度繰越。
*③
T社の2000年度の損失600は、まず200は自社の1999年度の利益200に繰り戻し、残額の400は連結納税申告年度の損失として繰越。
そして、その繰越損失400は、まず、2001年のP社の利益100と相殺し、そして、2001年のS社の利益のうちS社の2000年度の損失と相殺しきれなかった225(400-175)と相殺し、最後に、損失の残額75(600-200-100-225)をT社の2001年の連結申告期間分の利益150と相殺する。なお、T社の連結除外後の6/16~12/31の期間は、T社の単独申告となる。
*④
会計期間の中途で連結申告から外れた場合の所得の按分は、仮決算を行う他、年間の所得を日数で按分する方法も認められる。ただし、特別な項目は取り込まなくてはならない。

2.株主変更に伴う純事業欠損金の使用制限(382条)

欠損法人の株主持分に著しい変動(3年間に、5%以上の持分を有する株主の持分が50%超増加)が生じた場合には、その繰越欠損金に係る各年度の控除限度額は、その欠損法人の持分変動前の株式の時価の一定額に制限される。

繰越欠損金控除限度額=持分変動直前の法人の株式時価総額×長期免税債利率

注意
赤字法人購入による税逃れの防止
上記はあくまでも株主持分が変動した後、事業が継続された一般的な場合であり、このような株主持分の変動があり、その法人の事業が持分変動後2年以上継続されない場合には、欠損金の繰越は全額認められなくなる。
なおこの規定は連結納税特有のものではなく、一般的な制限措置である。
382条(株主持分変更に伴う欠損金使用制限)の具体例
(例1)発行済み株式総数の50%超変動の場合

法人Aが法人Bの全株式を5万ドルで購入。
法人Bの繰越欠損金は10万ドルとする。
法 人Bの株式時価総額は5万ドルであり、長期免税債利率は現在約6%である。

毎年控除可能なB社欠損金は 5万ドル×6%=3千ドル
この例では毎年3千ドルの欠損を20年間利用可能なため、累計で6万ドル利用可能であり、B社欠損10万ドルのうち、4万ドルは使用できないことになる。
長期非課税利率は免税であるため、一般の利率に比べ低く設定されている。この利率は市場で決定され、IRSが発表する。

法人Aが法人Bの全株式を5万ドルで購入。
個人AはT社の全株式を所有していた。
個人BはT社株式の45%を100万ドルでAから購入する代わりに、T社が解散する場合には優先的に100万ドルの払戻しを受ける優先権を取得した。
T社の欠損金は50万ドル。
T 社の資産価値総額は150万ドルである。

毎 年控除可能なT社欠損金は 150万ドル×6%=9万ドル

この例では個人Bが取得する株式は、議決権のある発行済み株式総数の45%であり株主持分は50%超変動していない。
しかし会社の資産価値は100万ドル÷150万ドル=約66%変動しているため、株主の持分が50%超増加した場合に該当し、382条の規制が適用される。

なお、法人の事業が株主持分変動後2年以上継続されない場合には、欠損金の繰越は一切認められない。

注意
翌年度に個人CがT社株式を購入し382条が再度適用される場合、2回目の規制を受けることになるが、2回目の制限額のほうが1回目よりも低い場合には、2回目の制限額が使用される。

3.ビルトイン・ディダクション(含み損)

ビルトイン・ディダクションとは、株主持分変動前の個別申告年度に経済的に発生していた未実現の損失をいう。この連結納税申告年度に実現した損失は、SRLYルールと同様に他のグループ法人の利益と相殺できず、この損失が発生した法人の所得とのみ相殺できる。
この制限規定は、連結グループ組成時の資産の市場価格が帳簿価格の85%を超え、又はビルトインロスが1千万ドルに満たず、かつグループがこの資産を、5年を超えて保有する場合には適用されない。

この規定は次の場合に適用される。
①SRLYルールの適用を受ける場合。

個別申告年度に発生した未実現損失で連結納税申告年度に実現した損失は、SRLYルールの適用を受け、他のグループ法人の利益と相殺できず、その損失が発生した法人の所得とのみ相殺される。

②前述した内国歳入法382条の適用を受ける場合。

3年間に5%以上の持分を有する株主の持分が50%超増加した場合、持分変動直前に存するビルトインロスに対しても382条は適用される。この適用は連結納税申告かどうかとは関係が無い。
具体例は次のとおり。

(例)
A社はX1年度に無形固定資産を150ドルで購入。A社の株主はBのみ。
無形固定資産はアメリカでは15年で償却のためX1年は10ドル償却。
X2年度にこの無形固定資産は著しい価値の下落があり、実質的にほぼ無価値となった。
この場合でも税法では15年で償却せねばならぬため、X2年の償却は10ドル。
したがって、未償却残高130ドルはビルトインロスとなった。
X3年期首にCがA社株式の60%を150ドルで購入。A社の資産価値総額は250ドル。但し、A社は欠損金がないため382条の制限は受けない。
X3年期首にこの無形固定資産を第三者へ10ドルで売却、売却損120ドルが発生した。この120ドルの損失は382条の制限を受け、一時の損金とされない。
毎年の損金算入限度額=250ドル×6%=15ドル
(ビルトインディダクションの制限規定が適用されない場合)
次ぎの①と②の両方を満たす場合。
株主持分変動時(連結グループ組成時)に存するビルトインロスの金額が、その時の資産の市場価格(公正時価)に対する15%と1千万ドルとのいずれか少ない金額に満たない場合。
株主持分変動時(連結グループ組成時)に未実現損失(ビルトインロス)であったが、その時から5年を超えて実現した損失。
注意
上記した『資産の市場価格』における『資産』は現金等一定のものを除く。 資産の市場価格を調べる場合には、資産の種類により様々な鑑定人へ鑑定を依頼する。

4.(参考)CRCO(Consolidated return change of ownership)現在は廃止

連結納税グループ共通親会社の株式のうち、所有割合が最も大きい株主10人の株式所有割合が、過去2年間に共通親会社株式の50%超変動した場合に適用される欠損金利用に対する規制だった。
内容は、旧連結メンバーの純事業欠損金のうち新連結メンバーの所得と相殺できるのを、新連結年度における旧連結グループのみの所得と控除で計算した、旧連結グループの連結課税所得に限るものであった。
つまり新連結年度において、新連結メンバーの所得と旧連結メンバーが旧連結年度に発生させた損失の相殺はできなかった。
米国では株主持分に変更があれば上記382条が適用され、欠損金の利用が制限されるためCRCOは廃止された。

注意
日本にはIRC382条に相当する条文もCRCOもないため、連結納税導入にあたり、このどちらかの規定を新設することを検討する必要がある。
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