第8章 【4】内部利益の繰延

【Ⅳ】内部利益の繰延

関連法人間取引に関するルール(REG 1.1502-13)

関連法人間取引とは、連結申告期間中に、同一の連結グループメンバーである法人間でなされた取引のことをいう。
売手側法人と買手側法人は、ある目的のためには個別事業体として扱われ、他の目的のためには単一事業体の一部門として扱われる。(前述した、単一事業体概念と個別事業体概念)
上記の考え方の基で、あるメンバー(売手側メンバー;「S」とする)から、他のメンバー(買手側メンバー;「B」とする)への資産移転によって生ずる損益は、Bが減価償却するか、外部に売却するまで、内部取引による未実現利益として繰延べられる。
注意
内部取引による未実現利益とは?連結グループ会社間の資産移転取引から発生する損益は、グループ全体をひとつの納税者または会社であると考えれば、実際にはグループとして損益が実現していない。 グループとしての損益は、資産がグループ外部に売却された時点、または買手側法人で減価償却するに伴い発生する。(詳しくは後記例示を参照)したがって期末資産のなかに内部取引による利益が存する場合には、グループの未実現利益となり、実現時まで売手側法人で繰延べられる。
注意
連結財務諸表の場合グループ間取引による内部利益は、連結修正仕訳により相殺消去されるが、連結納税ではあくまでも売り手側法人において損益の繰延を行う。

1.土地及び有価証券等の場合

経団連第二次案である税額合算方式でも提案されているが、土地及び有価証券等のグループ内取引から生じた内部未実現利益は、市場価格または鑑定評価額が比較的客観的に算定可能であるため、未実現利益の繰延は最もやりやすいと思われる。

(例1)
11年度に、Sが、簿価$70の土地を関連グループのBに、$100で売却。3年度に、Bが、関連グループ外のOに、当該土地を$110で売却。

1年度は、S社売却益$30を繰延。
3年度に$40($110-$70)の利益が実現するが、そのうち$30($100-$70)はSに帰属し、$10($110-$100)はBに帰属する。帰属を区分する実益は、単体のE&P(各法人の税務上の利益積立金)に反映させることにある。(第Ⅴ章、投資価格修正参照)

(例2)
連結離脱の場合
例1において、2年度の1月1日に、S株式の60%を、Xに売却し、Sは連結対象外となった。

1年度は、S社売却益$30を繰延。
2年度に、Sが関連グループから離脱するため、$30($100-$70)の利益が実現。)

注意
売り手法人又は買い手法人が連結離脱の場合 売り手法人又は買い手法人が連結離脱の場合には、当該資産をまだグループ外へ売却していなくても、繰り延べられた未実現利益はその年度で、全額売り手法人の利益として認識される。
(例3)
売却益と売却損の組合せの場合(その1)

1年度は、S社売却益$30を繰延。
3年度は、$20($90-$70)の利益が実現するが、そのうち、利益$30($100-$70)はSに帰属し、損失$10($90-$100)はBに帰属する。

(例4)
売却益と売却損の組合せの場合(その2)

1年度は、S社売却損$30を繰延。
3年度は、$20($110-$130)の損失が実現するが、そのうち、損失$30($100-$130)はSに帰属し、利益$10($110-$100)はBに帰属する。

2.減価償却資産の場合

(例5)
減価償却資産の場合(その1)

Sは、簿価$100のコンピュータを、3年度期首に、関連法人のBに$130で売却した。
減価償却の方法は、10年間の定額法とする。
*Sには売却益が$50($130-$80)発生するが、この$50を法定耐用年数の10年間で繰延べて実現させる。Bで減価償却費を$15($10+$5)計上するため、グループとしての減価償却費がS社の時の$10よりも$5増加する分に対応させるのである。

(例6)
減価償却資産の場合(その2)

親会社P社は1999年1月1日に固定資産を100で購入。
2000年1月1日この資産を子会社Sへ120で売却。
2001年1月1日子会社Sはグループ外部へ130で売却。
償却方法は簡便化のため耐用年数10年、定額法、残存価格なしと仮定。

1999年の親会社P社は減価償却費10計上し、売却時の帳簿価格は90。したがってP社の売却益は30だが、内部未実現利益は売り手側(P社)で繰り延べられる。
子会社Sの取得価格は120だがグループ内取引であるため、減価償却方法は以下のようになる。
P社の売却時帳簿価格 90はP社の減価償却方法を引き継ぐ。(毎年10償却)
それを超える分 30は新規取得資産扱いで、耐用年数10年定額法償却となる。(毎年3償却)
2000年のS社減価償却費は13であり、帳簿価格は107となる。同時にP社では繰り述べていた利益のうち当年度S社で認識された追加減価償却費部分3と同額の3が売却益として計上される。
2001年S社は売却益23を計上するが、同時にP社では繰り延べていた利益の残額27を当年度利益として計上する。

3.棚卸資産の場合(連結初年度の調整は1995年廃止)
 棚卸資産の内部利益

棚卸資産の場合にも上記固定資産と同様に、売り手法人にて内部利益の繰り延べ処理が必要である。
ただし棚卸資産の内部未実現利益は特別な場合を除き、その多くが翌事業年度にグループ外部へ売却され実現するものと考えられる。
このため日本では事務手続きの簡略化のため、棚卸資産に含まれる未実現利益の繰延を省略することも考えられる。

注意
連結初年度の調整
グループ法人が最初に連結納税申告をする場合、連結初年度の期首棚卸資産の中に個別申告年度に当該関連法人から仕入れた商品等があった場合、この金額の中には当該関連法人の利益(内部未実現利益)が含まれている。この金額を連結課税所得に加算しなければならなかった。
初年度に加算したこの金額は、当該法人が連結グループから離脱する年度に損金とすることができた。
それ以前に損金算入する場合には一定の方法により修正されるのだが、やや複雑な計算方法であるためここでは省略する。
この連結初年度における棚卸資産の内部利益の調整は、手続き簡素化のため米国では1995年に廃止された。
(例7)
棚卸資産に含まれる内部利益のイメージ(その1)

P社 帳簿 S社 帳簿 消去 連結
売上 150 △150 0
仕入 100 150 △150 0
利益 50 0 0 50
繰延 50 50
注意
上記の表はあくまでも棚卸資産に含まれる内部利益のイメージであり、実際には連結財務諸表における連結調整勘定のように、P社の売上とS社の仕入れを相殺消去することはない。
連結納税では個別法人の決算数値を基にするため、連結ベースではP社の決算数値に含まれている内部利益(上記の例では$50)を連結申告調整により減額(繰延べ)することになる。
(例8)
棚卸資産に含まれる内部利益のイメージ(その2)

<Sが第三者に100%売却の場合>

P社簿価 S社簿価 消去 連結
売上 150 250 △150 250
仕入 100 150 △150 △100
期末棚卸高 0 0 0 0
売上原価 100 150 △150 △100
利益 50 100 0 150

<Sが第三者に50%売却し、50%は在庫となった場合>

P社簿価 S社簿価 消去 連結
売上 150 125 △150 125
仕入 100 150 △150 △100
期末棚卸高 0 75 △25 50
売上原価 100 75 △125 50
利益 50 50 0 75
繰延 25 0 0 25

上記説例のとおり、グループ法人間取引であるP社からS社への商品販売額のうち、期末にS社棚卸となっている商品がある場合には、これに含まれるP社の利益部分はグループとして未実現利益である。
このP社から仕入れた商品をすべて外部の第三者へS社が販売したのであれば、期末の内部未実現利益がない(グループとして実現した)のは当然である。

以上見てきたように、グループ内部取引に関して発生する内部未実現利益の金額や、その取引内容を逐一記録しなければならない。これは連結納税のための手続きの事務量が相当程度に増加する要因の一つになっている。

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