第8章 【5】投資価格修正等
【Ⅴ】投資価格修正等
1.投資価格修正(Investment Adjustments)(REG 1.1502-31)
投資価格修正の必要性
連結納税では子会社に損失が生じた場合、その損失を連結グループとして使用する。この時、株主である親会社の税務上の投資価格(子会社株式の帳簿価格)を減額修正しなければ、その株式を他へ売却時に譲渡損が生じ、(子会社株式の価値はその損失分減じているから)グループとして損失の二重取りが可能になってしまう。
同様に子会社に利益が発生した時は、同じ利益に対する二重課税になる。そこでこれらを防止するために投資価格修正が必要になる。
- (例1)
- 投資価格修正がなぜ必要か?(税率40%と仮定)(ケース1)(ケース2)
①PはSの全株式を1000で取得 ②連結1期Pは400の利益を計上 (ケース1)Sは400の欠損を計上 (ケース2)Sは400の利益を計上 ③連結1期の納税債務をSへ配分 ④連結2期の期首にPはSの全株式を売却 |
1000 400 △400 0 600 |
1000 400 400 160 1240 |
投資価格修正を行わない場合 P社のS社株式譲渡損益の計算 ①売却価格 ②税務上の簿価③売却損益 |
600 1000 △400 |
1240 1000 240 |
投資価格修正を行う場合 P社のS社株式譲渡損益の計算 ①売却価格 ②税務上の簿価 取得価格 投資価格修正(連結1期の利益積立金の増減) 修正後の税務上簿価 ③売却損益 |
600 1000 △400 600 0 |
1240 1000 240 1240 0 |
- 注意
- 投資修正とは
連結納税で子会社投資価格を修正した場合には、単に税務上の簿価修正であり、低価法のように評価損を計上したり、時価法のように評価益を計上するものではない。
修正項目
子会社株式の投資価格修正項目は次のとおり。
(増額修正項目)
- ①
- 子会社株式の投資価格修正項目は次のとおり。
- ②
- 年度に連結グループ全体として欠損金を生じた場合、連結欠損金または連結純キャピタル・ロスの当該子会社への割当額のうち、前年度以前に繰戻控除されない金額。
(増額修正項目)
- ③
- 当年度の当該子会社の欠損金。
- ④
- 上記②の当該子会社への割当額のうち、前期以前に発生していたものの内、当年度において繰越控除された金額。
- ⑤
- 当該子会社が個別申告年度において生じた純事業損失または純キャピタル・ロスのうち、当年度において繰越控除された金額。
- ⑥
- 当該子会社の前年度以前の未分配の利益積立金からの当年度中の配当。
上記は子会社の利益積立金の増減に影響を与える内容である。
①と③が必要な理由は前記の例のとおり。
⑥が減額修正必要な理由は次の例のとおり。
- (例2)
- 親会社P社は、X1年にS社の全株式を1000で取得。S社は現金1000のみで負債無しとする。
同年中にS社はP社に対して配当800を支払い。X1年にS社は所得が0だった。 X2年期首にP社は、S社の全株式を200で売却。
投資価格修正をしないと連結グループは配当金800を非課税で受け取り、かつ株式譲渡損800を計上することになる。
②が増額修正必要な理由は次のとおり。
- 当年度に発生した欠損金は前年度以前の期に繰戻しをして還付請求すれば、利益積立金が増加する。
- したがって未だ繰戻しを受けていない欠損金は、投資価格減額修正をする必要は無い。
- それにもかかわらず③で減額修正しなければならないので、未だ繰戻しを受けていない欠損金は再度増額修正することになる。
④はこの②で増額されたものの内、当期に繰越控除された分は減額修正で消すことになる。
- 注意
- 非課税収益と損金否認項目
非課税収益は課税所得に加算されないが利益積立金の計算ではこれを構成するため加算し、税務上の損金算入限度額を超過する支出は、課税所得を構成するが利益積立金では減算して考えなければならない。
以上をまとめると投資価格修正の計算方法はおおむね次のとおり。
初 期( 設 立 時 )投 資 価 額
+ 課 税 所 得
- 課 税 損 失
+ 非 課 税 所 得(例.地方債の受取利息)
- 損金不算入支出(例.連邦税、交際費の一部)
- 配 当
投資価格修正は、子会社等各個別法人の税務利益積立金(E&P)を増減させるものであり、注意しなければならないのは、例えば孫会社のE&Pが増加したために子会社が有する孫会社の投資価格を修正した場合に、これに起因した子会社E&Pも増加するため、親会社の有する子会社株式の投資価格修正が同時に必要になることである。
(次の例3を参照)
- (例3)
- 下位法人の投資修正の与える影響
親会社X社の有する子会社P社株式の時価1000 帳簿価格1000
P社の資産は孫会社S社株式のみ、他にPは資産、負債は無い。
P社が有するS社株式の時価1000 帳簿価格1000
S社は今期、税引後利益400を計上した。
- 注意
- 投資価格修正は下位の会社の修正をしたら、その影響を上位の会社の投資価格に反映させる。非常に面倒くさいので、実務では子会社等株式の売却を決めてから慌てて計算している。
但し、規則では毎決算期末におこなわねばならないことになっている。
2.超過欠損金(Excess Losses)(REG 1.1502-19)
超過欠損金の取り扱いは次のとおりである。
- ①
- 投資修正をした結果、子会社投資価格がマイナス残高になる場合がある。これはその子会社の欠損金が株式価格を超える場合である。この場合には、有価証券のマイナス残高はありえぬため、超過欠損金勘定(excess loss account)へそのマイナス残高を振り替える。
- ②
- 超過欠損金は、子会社株式を売却した場合またはその子会社が連結を離脱した場合には、マイナス帳簿価格を消滅させるため、所得に戻し入れる。
- ③
- 売却した株式に対応した超過欠損金の戻し入れ益は子会社株式売却益とされ、残存株式保有対応分は株式の売却時まで繰延利益とされる。
- (例)
- X1年、Pは、通常所得$500発生。
X1年、Tは、通常損失$200発生。
X1年、Sは、所得・損失なし。
X2年期首、Sは、T株式を$60で売却。(excess loss account)へそのマイナス残高を振り替える。
- (※1)
- 売却株式に対応する超過欠損金の戻入れ益を計上する。
- (※2)
- 投資修正によりS社の有するT株税務簿価は△100のため、この金額は超過欠損金勘定へ振り返られる。このためT株税務簿価はゼロとなり、T社株式売却益60が計上される。
- (※3)
- T社の損失△200は、T社の投資価格に影響するだけでなく、S社投資価格にも反映する。
3.ロス、ディスアローアンス、ルールス(LDR)
子会社株式の簿価修正に伴う『ロス ディスアローワンス ルールス』子会社株式の売却損のうち、次の3要素からなるものは控除できない。
- (1)
- 投資価格修正のもと、株価に反映する特別な利益(ビルトインゲイン)
- (2)
- 重複ロス
- (3)
- 投資価格修正のもと、株価に反映する投資増額修正
- 注意
- これら3つの要素以外の売却損は(株式市場の動向等、経済情勢等による子会社株式の値下がり分)利益から引くことができる。
1.投資価格修正のもと、株価に反映する特別な利益の例示
- (例1)
- ビルトインゲインによるロスの場合
P社がT社を100ドルで購入。
T社の市場価格は100ドルであり、T社は無形固定資産を有する。この無形固定資産の帳簿価格はゼロ。したがってこの無形固定資産を売却すると、売却益100ドルが発生する。(T社の資産価値に変動は無いため、T社株式時価は100ドルのままとする。)
P社の有するT社株式の税務上の価格は、取得価格100ドルにこの売却による利益100ドルを加算するため200ドルとなる。
その後P社がT社株式を市場価格の100ドルで売却すると、T社に売却損100ドルが発生する。この損失はビルトインゲインに基づく売却損であるため、税務上利益から控除できない。
2.重複ロスの例示
- (例2)
- デュープリケィティッドロス(重複ロス)の場合
P社が100ドルでS社を設立した。S社に欠損金60ドルが発生したがこの欠損金を連結上使用できなかった。
S社株式の市場価格は40ドルとなったため、P社はS株を40ドルで売却し、60ドルの売却損が発生した。
この売却損60ドルは『重複ロス』として利益から控除することはできない。
S社がもし他の連結グループに加入してこの繰越欠損金60を使用したら、P社で計上されたS社株式売却損と『重複ロス』となるためである。
3.投資価格修正のもと、株価に反映する投資増額修正の例示
- (例3)
- 投資価格修正のもと、株価に反映する投資増額修正の場合
- ①
- 連結メンバーB社は、子会社X社とY社を有する。B社は他に資産負債無し。
- ②
- X社の所有純資産簿価50、時価100
- ③
- Y社の所有純資産簿価50、時価100
- ④
- A社がB社株式全株を時価200で取得する。
- ⑤
- A社がB社からY社株式を配当として受け取ると、B株式の時価とA社におけるB社簿価は200から100に減額する。
- ⑥
- この時Y社株式譲渡益50がB社の益金に算入されるから、投資価格修正によりA社のB社株式簿価が増額されて100から150になる。
- ⑦
- A社はX社株式だけを有するB社株を時価100で売却し、譲渡損50が計上される。
- ⑧
- A社はY社株式を時価100で売却。
鏡の子取引
投資価格修正のもと、株価に反映する投資増額修正による子会社株式等売却損を否認しなければ、上記のとおり連結グループとしては⑥の譲渡益50と⑦の譲渡損50が相殺されて、連結納税上の所得はゼロになる。
また配当時にY社株式は時価100まで引き上げられているため、⑧の譲渡所得もゼロである。
- 注意
- 鏡の子取引とは 投資価格修正は子会社の実現剰余金は反映するが、未実現損益は反映しない。しかし株式の時価はこの未実現損益を当然に反映するために、投資価格修正を悪用した上記のような課税逃れが行われることになる。この課税回避行為をson of mirror transactionと呼んでいる。
鏡の子取引のような投資価格修正を悪用した課税逃れを防止するため、アメリカでは子会社株式の投資価格を修正した場合の譲渡益に課税するにもかかわらず、投資増額修正等による子会社株式の譲渡損には前記した3つの否認規定(LDR)を定めているのである。
このLDRの規定により、実務上は子会社株式の売却損はほとんどの場合控除できないか、できたとしてもごくわずかの金額であるのが実情である。