Ⅰ.米国の納税者に対する税務援助制度
1.米国の所得税申告
米国において、合衆国市民は、原則として合衆国内外の全所得について課税される。米国には日本のように給与所得者に対する年末調整制度がなく、給与所得者、年金所得者等、事業所得者等、一定の所得水準があった者は、翌年1月1日から4月15日までに確定申告書を提出して、所得税を精算する。
このように米国では資料3-1記載のように、個人所得税申告で約一億二千三百万件の申告件数がある。これら納税者の所得税申告書作成等の相談に応ずるのが会計職業専門家であるが、資料3-2、1997年の課税年度における申告準備者が署名した申告書は六千三百万件にものぼっている。
多くの米国の納税者は、自分で申告書を作成するか、職業専門家に依頼するかして確定申告をするが、こうした自書申告できない者、職業専門家に事情により依頼できない者は、米国においてはIRSのEducation Serviceを利用して申告をしている。このサービスの中に、低所得者、高齢者、身体障害 者等のためのボランティアによる税務援助が用意されている。
(注)資料3-1「IRS Annual Data Book; Summary: Number of Returns by Principal Type of Return 3-2「Taxpayers Receiving Assistance, Paid and Unpaid, Tax Years 1990-1997」を参照。
2.「申告準備者」に対する法規制及び適用除外
アメリカ合衆国の内国歳入庁に対して、依頼人を代理して行う税務業務に関する根拠法規は「財務省通牒 230号」に拠る。 この230号通牒 第A章 業務を行う資格に関する規則 第10・3条では業務を行い得る者を次のように規定している。
規則第10・3条
- 弁護士、公認会計士
その資格及び代理権限の正当性を示す通知を内国歳入庁に行うことが必要(登録は不要) -
登録代理人(規則第10・4条~10・6条)
- 内国歳入庁が行う試験の合格者
- 内国歳入庁の本職員で登録資格を有する者
- 登録保険計理士
年金計画等に関する代理についてのみ業務が認められる。(資格及び代理権限の通知が必要) -
その他の者(規則第10・7条による限定列挙)
- 被雇用者が雇用主(個人、組合、会社、信託財団、相続財団、協会又は組織化された団体を含む)のために業務を行う場合。
- 有償で近親者のために業務を行う場合
- 第三者の申告書を作成、署名した者が、当該申告書記載の租 税債務につき税務当局に対して一定範囲で納税義務者を代理して業務を行う場合。(注1)
- 政府諸機関の職員が、職務上その機関のために業務を行う場合。
- その他税務業務管理官が特に認めて権限を付与した者。
(注1)納税者のために申告書を作成・署名した者(又は納税者に代わって 申告書を作成した者の署名が不必要とされる申告書を作成した者)は、その申告書に記載された課税年度の納税者の納税義務に関し、IRSの調査官に対し、登録なしで納税者の代理人として出頭することが出来る。(納税者からの権限の委任は必要)
(注2)アメリカ合衆国の税務業務《財務省通牒230号》
財団法人日本税務研究センター 7~8頁
所得税申告書準備者と適用除外 (Sec.301.7701-15)
原則的に、所得税申告書準備者は、1954年の内国歳入法のA項による税金申告書・還付申告書のすべて或るいは主要な部分について報酬を得て申告書を準備する者及び報酬を得て申告書を準備するため一人以上の者を雇用する者をいう。
しかしながら、申告準備者に対する法規制の適用除外者として、次の者は除外される。
- 内国歳入庁により制定されたボランティア所得税援助(VITA)プログラムにより税金援助を提供する個人。
- 内国歳入庁により制定されたボランティア所得税援助(VITA)プログラムを後援或るいは管理する団体。
- 1978年の歳入法のセクション163にしたがって制定されたプログラムにより高齢者に税金カウンセリングを提供する個人。
- 1978年の歳入法のセクション163にしたがって制定された高齢者の税金カウンセリングを提供するプログラムを後援或るいは管理する団体。
すなわち、上記(1)~(4)の者が行う税務援助業務は、財務省通牒230号の12に規定された各種の業務遂行義務の適用を受けずにIRSから直接監督を受けることになるので、所得税申告書準備者から除外されている。